演歌・歌謡曲

幻のロックフェス ヱビス一番音楽祭の思い出(2)

世のロックフェスティバルがただ音楽ビジネスに扇動されたお祭りと化している現代。しかしかつて大阪には骨太なコンセプトを貫き、歌謡曲ファン、和製ロックファンに愛された真のロックフェスティバルがあった。その名も『ヱビス一番音楽祭』。出演者としてヱビス一番音楽祭に関わった中将タカノリが秘めていた記憶をひもとく。

中将 タカノリ

執筆者:中将 タカノリ

演歌・歌謡曲ガイド

『幻のロックフェス ヱビス一番音楽祭の思い出(1)』こちら

ただ一つの心残り

僕たちViva!LasVegasのステージははっきり言ってウケたと思う。

オリジナル曲もけっこうウケたが、沢田研二さんのヒット曲『ス・ト・リ・ッ・パ・ー』(1981年)のカバーは思い切りウケた。
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真木ひでと(オックス)さんやお客として来ていた人気DJ・キングジョーさんにも褒めていただいたなぁと懐かしく思い出す。

グループサウンズナンバーのほうがフェスの空気にふさわしかったのだろうが、本家本元の大先輩たちとカブってしまうことはなにより恐ろしいので考えあぐねた結果の選曲だった。

ただ一つの心残りは……他人に自分の曲をカバーされるのが大嫌いな沢田研二さんのこと。

僕が勝手に『ス・ト・リ・ッ・パ・ー』を歌ったことなど知るすべもないだろうが、あえてこの場を借りて謝罪します。

もう昔の話なので許してください……。

GSスターたちの名演

オープニングが終わった後はいよいよ真打たちの登場。

水谷ひろしさん(ファンキー・プリンス)さんの司会、リンド&リンダースの演奏でボーカルが入れ替わっていくスタイルだった。

久々の大舞台で「テッちゃーん!」という歓声につつまれご満悦だった加賀テツヤさん(ザ・リンド&リンダース)
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漫談みたいなスタイルが印象的なサミー鈴木さん(シャープホークス)

50代半ばとは思えないセクシーイケメンの岡本信さん(ザ・ジャガーズ)

アイドル時代をほうふつとさせるエネルギッシュな歌声の真木ひでとさん(オックス)

独特の孤高のオーラを放つ加橋かつみさん(ザ・タイガース)
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当時まだ50代半ばから60歳くらいだったみなさん。

20歳そこそこの自分からはずいぶん年上に思えたが、今考えれば音楽人として、パフォーマーとしてエネルギーのみなぎっている時期だったのだと思う。

今はもう亡くなってしまった人もいるが、あの興奮と音楽はみんなみんな昨日のことのように記憶に焼き付いている。


“何か持っている”内田裕也さん

会場の盛り上がりが最高潮に達したのはやはり大トリの内田裕也さんの出番。

一旦、バンドがはけて静まり返ったステージに、突如として『マツケンサンバ2』(2004年)のSEとともに駆け入ってきた裕也さん。
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ステージ前に押し寄せた観客と警備員が小競り合いになりかけたところを

「いいじゃないか、来させてやれよ。(みんな)大丈夫だよな?」

と一喝しておさめた光景はとても印象的だった。

「ウォー!」という歓声に応えて沢田研二さんの『勝手にしやがれ』(1977年)、ご自身の『長いお別れ』(1985年)を歌いあげる裕也さん……

歌入りの原曲にかぶせて歌うという独特のスタイルではあったが、ロックの草創期からさまざまな修羅場を乗り越えてきたロックスターならではのカリスマ性を感じたものだ。

よく知らない人からはなにかと中傷されがちな裕也さんだが、確実に“何か持っている”人なのだと納得できた貴重な時間だった。

フィナーレではようやく出てきたバンドの生演奏で『ジョニー・B.グッド』(1958年)。

裕也さんの飄々とした歌声はもちろん、三原康可さんやスティービー和田さんら凄腕ミュージシャンのプレイ、メンバー全員でキメるダック・ウォークとわずか数分の間に「これでもか!」と詰め込まれたエンターテイメントにその場の全観客、全関係者がシビレていた。


振り返ればプロデビュー

緊張と期待の中で、あっという間に時間が過ぎ去ったヱビス一番音楽祭。
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打ち上げの席では改めて裕也さんにご挨拶して、また共演者のみなさんと親しくお話しさせてもらうことができた。

特に岡本信さんからは

「ジャガーズの曲、どんどんカバーしてくれよ!」

とお墨付きをいただいた。いまだ果たせないままではあるが……。

ともかくこのイベントを通して僕は初めて“業界的”な空間に足を踏み入れさせていただいたのだ。

初めてギャラをいただいたのもこの時。

しかもイベント後には評判を聞きつけたイベンターやラジオ局からの出演オファーやレコード会社のライブ視察が相次いだ。

バンド自体はほどなく解散してしまったのだが、その余波はその後のソロ活動においても大きな助けとなった。

このイベントがなかったなら僕は20代のどこかの時点で芸事を辞めてしまっていたかもしれないなと思う。

僕が今でも歌手として、音楽評論家としてお仕事ができているのは全て加賀テツヤさんのお陰だということだ。

(3)に続く
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