視聴者は『下町ロケット』の何に共感したのでしょう。
■夢に共感する「夢をあきらめない」というメッセージを織り込むドラマは多いですが、『下町ロケット』では、窮地や絶体絶命の具体的な背景が視聴者も理解しやすい内容で描かれました。
「夢の追い方」も、きちんと掘り下げられていることで、特別な共感を生んだドラマだと言えます。特許問題、底をつく資金、期限との闘いといった難問を、「無理だとしても頑張ってみる」姿勢とその意味を主人公の佃航平(阿部寛)が懸命に訴えるところに、大きな共感が生まれました。
■佃航平に共感する
佃航平は、相手が大企業でも、一緒に働く仲間でも、同じ言葉・同じ態度で夢を語ります。いい意味で使い分けをしません。そんな佃航平の言葉はまっすぐに届くので、語る夢に共感できるのでしょう。
また、佃航平は自分の弱さを見せます。全社員を信頼しているからこそで、等身大でぶつかってくる。虚飾のない人間だから共感できます。
そして、不本意な結果や不甲斐ない自分を悔しがります。隣にいる人と一緒に泣き、笑い、許せない人間に対し容赦なく怒ります。そんな人間味あふれる佃航平に共感するのでしょう。
■佃製作所に共感する
佃製作所で働きたい。あんな企業があればいいのに、そう感じた人も多いことでしょう。決して大手ではないのに、強い組織として機能し、一人ひとりの存在意義が明確な佃製作所は、誰もが非常に高いパフォーマンスで会社に貢献しているところに絶対的な強みを感じます。
お客さまを全員で大歓迎する習慣、お互いを認め合う風土など、職場として共感できる佃製作所の存在もドラマの大きな魅力です。
ドラマを沸かせた登場人物たち
主人公以上に個性的な登場人物が、勧善懲悪のわかりやすさと、週末のスカッと感を完成させました。『下町ロケット』の登場人物には二つの傾向があるようです。■様々な分野で活躍している人たちが演じる
音楽界からはキリッとスーツを着こなし、常に冷静に闘いに挑む吉川晃司と、ヒールに徹した世良公則。お笑い界からは今田耕司と今野浩喜(キング オブ コメディ)、物語を左右したバカリズム、やわらかい笑顔でシャープに斬り込み安定した演技を見せた弁護士役の恵俊彰。立川談春との炸裂したシーンを緊迫しながらも、どこかコミカルに演じた春風亭昇太。芯の強いジャーナリストを爽やかに演じた高島彩。
俳優ではない人たちの演技は新鮮で、視聴者は毎回何かしらの気づきを得ることになります。また、オールスターキャストとは違う緊張感やほっこり感も特徴のひとつ。
話題性に頼ることなく、見ごたえある彼らの演技が、人気を支えた大きな要因と言えます。
■フレッシュな俳優たちが演じる
『半沢直樹』もそうでしたが、『下町ロケット』でも、それほど知名度が高くない若い俳優たちの透明感あふれる演技も作品を支えました。
ガウディの開発を担当した立花洋介を演じる竹内涼真が、PMEAの面接で立ち上がるシーンは視聴者の心を打ちました。力強く再起した真野賢作を演じた山崎育三郎や、誠実な技術者の浅木捷平を演じた中村倫也、そしてガウディチームの加納アキを演じた朝倉あき、言葉を大切にした丁寧な演技は好感がもてます。画面のこちらにも、まっすぐな心が伝わってくることに驚かされました。
吉川晃司が演じた財前道生のスーツケース、バカリズムが演じた横田信生のその後など、ちょっとした謎で話題を残した『下町ロケット』。
諦めそうになったら佃航平を思い出し、佃製作所に、いつかまた出会いたいと思います。