地震の大きな揺れがくる前にスマートフォンや携帯電話から警報音が鳴り響く「緊急地震速報」ですが、この一般提供が始まったのは2007年10月のことです。最大震度5弱以上が見込まれるときに、震度4以上が予測されるエリアへ向けて発せられるのですが……。

しかし、東日本大震災の際に緊急地震速報が発信されたのは、震源域から比較的近い東北地方の一部にとどまり、大きな揺れに見舞われた首都圏でも警報音は鳴っていません。

また、2015年5月30日に小笠原諸島西方沖で発生した地震は東日本大震災に次ぐマグニチュード8.1の巨大地震で、神奈川県の一部で震度5強、埼玉県の一部で震度5弱、首都圏の広範囲で震度4を記録したものの、緊急地震速報は発せられませんでした。

地震のタイプはさまざまであり、技術的な問題もあってあらゆる事態に対応することが難しい側面もあるのでしょう。東日本大震災のときは想定外の連動型地震だったこと、小笠原沖地震のときは未対応の深発地震だったことが一因とされています。

緊急地震速報が導入された当初には、気象庁の対応をあげつらうようなマスコミの論調も少なからずあったようです。たとえば、2008年1月26日に発生した石川県能登地方を震源とする地震では、最大で震度5弱が観測されたにもかかわらず緊急地震速報が発信されなかったとして、マスコミが批判記事を掲載していました。

しかし、震度4と5弱の微妙な境目あたりの揺れもあるはずです。しかも、2008年1月の地震では、震度5弱を記録したのが輪島市門前町走出の1観測地点にとどまり、震度4も輪島市鳳至町と穴水町大町の2地点だけで、その他はすべて震度3以下となっていたのです。

また、地震による実際の揺れは観測地点の地盤による違いも大きく影響します。たとえば、2005年7月に首都圏で発生した最大震度5強の地震では、実際に震度5強を観測したのが東京都足立区伊興の1地点だけで、同じ足立区内の他の地点はすべて2段階低い震度4以下でした。

逆にいえば、観測地点ではない周辺の多くの区域が震度5弱以上の揺れに見舞われても、たまたま観測地点の地盤がよければ震度4の地震としてしか記録されないこともあり得るでしょう。

一つひとつの地震の特性が異なる中で「1観測地点だけが震度5弱以上になる」と瞬時に予測して緊急地震速報を出す判断を下すことは、いくら気象庁の観測技術や分析技術が進歩しても困難だといわざるを得ません。

それよりも「緊急地震速報が出たのに実際はあまり揺れなかった」という経験が増えることのほうが心配です。

2005年7月の首都圏の地震でも多くの人は震度2や3程度の揺れしか体感していないのですが、1地点だけだった「震度5強」が強調されることによって、「震度5強? あれっ覚えてないなぁ、震度5強でもたいしたことないじゃん」などという勘違いにも繋がりかねないのです。

また、緊急地震速報はあくまでも実際に地震が発生してから、各地に揺れが到達するまでの時間差を利用して発信されるものであり、決してこれから発生する地震の「予知」ではありません。

そのため、揺れが激しくなりがちな震源に近いところほど速報が間に合わなかったり、事前に速報を受信してもそれに対処する時間の余裕がなかったりすることもあるでしょう。

緊急地震速報によって安全が確保されるわけでも、揺れが軽減されるわけでもありません。緊急地震速報は一つのツールとして捉え、それを過信するのでも軽視するのでもなく、その他の地震対策をしっかりと考えておくことが重要です。


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(この記事は2008年2月公開の「不動産百考 vol.20」をもとに再構成したものです)


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