土地購入/土地探しのポイント

地盤で異なる地震の揺れかた

地震の発生後に発表された震度と自分の感じた震度が異なることは、多くの人が経験しているでしょう。その原因となる地盤の違いを知って、住宅選びに役立てることも大切です。(2015年改訂版、初出:2005年8月)

執筆者:平野 雅之


東日本大震災で地震の恐ろしさを改めて感じた人も多いでしょうが、首都直下地震や南海トラフ地震など、さらなる大地震の発生も懸念されています。

少し前の話になりますが、2005年7月23日の夕方に首都圏で発生した強い地震では、東京都足立区で震度5強、東京都、千葉県、埼玉県、神奈川県のそれぞれ一部の地域で震度5弱を観測しています。東京で震度5以上が観測されたのは1992年以来13年ぶりのことでした。

このとき1都3県で27人の重軽傷者が出たほか、一部では地震による火災もありましたが、幸いにも大惨事に至らずに済みました。もちろん被害を受けた当事者にしてみれば、たいへんな災難だったことでしょう。

また、この地震では従来あまり考えられていなかった事態が起きたほか、「近接エリアでも地盤によって震度がまったく違う」ことが注目されました。

(この記事は2005年に首都圏で発生した地震について記述したものを再構成しています)


想定外の事態が続出した!?

2005年7月の地震では、都市の脆弱さだけでなく、それまであまり目が向けられなかった問題点なども浮き彫りになりました。当日は土曜日でしたが、長時間にわたる交通機関のストップにより、百万を超える人が影響を受けたといわれています。もし、これが平日に起きた地震なら影響が1千万人近くに及んだかもしれません。

都心のビル群

次の大地震がいつやってくるのか誰にも分からないが……

そして、このときの地震で最も大きくクローズアップされる結果となったのが、エレベーターによる「缶詰め事故」です。約6万4千台のエレベーターが緊急停止し、人が閉じ込められた事故は合計で78件あったのだそうです。

当初は「缶詰め事故」の大半が地震時にその場で止まってしまう旧式のものとされ、最寄り階に緊急停止してドアが開く「地震時管制運転装置」を装備した新型エレベーターへの設備更新が急務とされました。

ところが、その後の調査で実際に「缶詰め事故」に遭ったうちの約9割が地震時管制運転装置を装備した新型エレベーターだったことが分かり、事態の深刻さを物語っています。首都圏のエレベーターは既に7割ほどがこのタイプだとされていますが、「新しいマンションだから大丈夫」などと安心することはできないでしょう。

もし、道路交通が寸断されるような被害を伴った大地震に襲われたら、いったいどうなってしまうのでしょうか?

このときの地震でも数時間にわたって閉じ込められた事例があったようですが、万一、数多くの「缶詰め事故」が発生し、エレベーター保守会社の担当者が駆けつけることもできないような事態が生じたら、最悪の場合は数日間にわたり閉じ込められることも考えられるでしょう。

その後、システムの改善はだいぶ進んでいるようですが、中古マンションを購入するときにはエレベーターの地震対策がどうなっているのかについても確認しておきたいものです。

それはさておき、この地震に関するデータを見ていると、いくつかの興味深い点に行き当たります。それは、ごく狭い範囲内でも震度がまったく異なること。そして、揺れかたの違いには地盤が大きく影響しているらしいということです。


地盤によって震度が違う!

気象庁では地震発生直後からさまざまなデータを公表していますが、2005年7月の地震で震度5強を記録したのは東京都足立区伊興だけでした。西新井消防署にある震度観測点です。

そして、震度5弱だったのが東京都江戸川区船堀、東京都大田区本羽田のほか、神奈川県横浜市の7地点、神奈川県川崎市の3地点、千葉県の6地点、埼玉県の5地点で、残る大半の震度観測点では震度4もしくは3以下でした。

地震被害

地盤があまり良くないエリアに、地震による被害が集中することも

震度5強を記録した足立区伊興は、その後の調査で江戸時代初期まで流れていた旧利根川による洪水被害を受けた「後背湿地」と呼ばれる軟弱地盤の地域であることがわかったようです。

足立区内の他の震度観測点ではほとんどが震度4だったことから、最大震度を記録した地点ではかなり突出した揺れかたをしたことがうかがわれるでしょう。

さらに、東京都千代田区大手町の「気象庁」が震度4だったのに対して、そこから皇居を挟んで直線距離で約1.8km離れた千代田区麹町は震度2でした。

東京都内の他のデータを見ても、同じ区内や市内、あるいは隣接する地域でまったく異なる震度が観測されています。また、実際に私が地震発生時にいた場所の最寄りの観測点では震度4が観測されたものの、私自身は「いつもよりちょっと大きいかな」程度にしか感じませんでした。

このような震度の違いと地盤とがどう関係するのでしょうか。試しに国土地理院が発行している「土地条件図」で調べてみると、震度4だった千代田区大手町は「人工地形の盛土地」であり、震度2だった千代田区麹町は「台地・段丘の上位面」となっています。震度5強を記録した東京都足立区伊興も大手町と同じく「人工地形の盛土地」のようです。

また、東京(江戸)の歴史に関する本を見ると、千代田区麹町あたりは武蔵野台地の東縁にあたり、大手町あたりはかつて海だったことも分かります。数百年前は日比谷入江の湿地だった大手町あたりが整備されたのは江戸期以降のことであり、長い歴史のなかで考えれば「埋め立てられてからまだ間もない土地」だといえるでしょう。

同様にこのときの地震で震度5強や5弱を記録した内陸部の地点も、その大半は縄文時代の頃には海だったと考えられているエリアです。

地盤の強度は海岸線が後退したり埋め立てたりしてからすぐに変わるものではなく、数千年から1万年を超えるような気の遠くなる時間の流れの中で徐々に変わっていくものです。人間のチカラで変えることはできないものなのでしょう。

しかし、地震そのものは避けることができなくても、住宅を選ぶ際に「その地盤はどうか」と少し意識を向けるだけで、地震による被害を軽減することができるのではないでしょうか。

地盤が良好なエリアを選ぶことはもちろん、地盤があまり良くないエリアであれば建物の基礎対策を入念に行なったり、室内における家具の転倒防止対策や配置による怪我の予防策をより一層しっかりと講じたりするべきです。

来たるべき “そのとき” に備えて、万全の態勢を整えておかなければなりません。


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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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