国の年金運用も、実はほとんどのマイナスは解消済み
さて、国の年金運用に話を戻すと、「官僚の言い訳」とされている部分にその含み損の真実が隠されています。悪口を書いている記事をよく読むと、「株価は10月末時点でかなり回復しているので、損失はほとんど解消されたとみられる」と最後にちょっとだけ書き込んであったりします。こちらについては悪口コメントも褒めるコメントもなく淡々と事実が書かれているだけです。しかし、これが「含み損」の効果が出ている、ということです。実際に株価の推移をみてみると(日経平均株価)、2015年3月末19206円、2015年6月末20235円、2015年9月末17388円、2015年11月末19747円、という感じで、6月末は大きく上がって、9月末だけガクンと下がっていました。今は3月末時点に近い株価になっています。
もしこのとき本当に売っており「実現損」を出していたのであれば8兆円の損失はとんでもないことになります。しかし実態は異なります。
3月末と比べて9月末はマイナス9.5%ですが、11月末の段階ではむしろプラスに戻っています。先ほど国の年金運用のほとんどは「含み損」だといいましたが、株価を見る限り、約8兆円の含み損のほとんどは9月末の株価が大きく下がっていたためであり、むしろ現在進行形ではほとんど問題ないということになります。
(もう少し補足すれば短期的には株価が下がる時期があったほうが中長期的には値上がりチャンスが増えるので、むしろ9月末のような値下がり時点は購入チャンスであったりします)
投資において、一時的なマイナスについてドヤ顔で何か語りたがる人は投資の素人か未経験者の類といって間違いありません。こういう素人が「プロ中のプロを雇えばいいのだ」としたり顔で言うのですが、残念ながらどんなプロでも年金運用において含み損を抱えることはしょっちゅうですし、株価が下落している時期にプラスを出す人はほとんどいません。いずれにせよ、「プロ中のプロ」というのは素人コメントの典型といえます。
それでもマイナスを自覚することは大切
さて、「なんだよー、メディアやネットの記事に踊らされたのかよー」と思った人も多いと思います。もしかすると、「だまされたような話だ。含み損なんかそもそもカウントしなければいいのでは?」と思う人もいるでしょう。しかし、これも間違いです。「含み損」もいいことばかりではありません。注意点がひとつあって、それは「さらに値下がりが続けば元に戻るどころかもっとマイナスが拡大する」ということです。
業績悪化が止まらなくて、最盛期の株価には二度と戻らないであろう企業の株などはさっさと手放したほうがマシということになります。
いずれにしても、「含み損」の状況を知っておくこともまた大切です。特に国の年金運用や企業年金運用、投資信託の運用などはそうした情報開示を向こうがしてくれない限り、そもそも含み損があるのかどれくらいなのかが分かりません。情報開示は必要なのです。
短期的な問題であったとしても、やはり国は含み損を公表するべきなのです。個人の運用においても含み損はちゃんと確認しておく必要があります。
ニュースを読むとき、相手の力量も読む意識が必要
今どきのネットリテラシー、ニュースリテラシーは難しいものとなっています。というのも玉石混淆の度合いが強くなってきているからです。まとめサイトなどでは過去の間違っている画像が何度も反復してあなたのSNSのタイムラインに流れてくることもあり、さらに混乱に拍車がかかります。芸能人の記事を読むときは「ウソも本当もごちゃ混ぜだよなー」と思いながらゴシップ記事を読むはずです。同様に、一部のネットメディアや夕刊紙などの記事は読み方に注意が必要だと思います。
国を何でもヨイショする記事を怪しむのも当然です。同時に何でも悪口として書く記事も要注意だと思います。自分が自分好みの記事を吸い寄せてしまう傾向もあり、メディアリテラシーは本当に難しいことです。
少なくとも、大きな勘違いを自信満々に記事には引っかからないようにしたいものです。