国の年金運用が約8兆円損を出した！？
国の年金運用を担当する年金積立金管理運用独立行政法人（略称ＧＰＩＦ）が、なんと3カ月で8兆円も損を出したとニュースになりました。というのも、2015年9月末時点での資産残高が6月末時点での残高と比べて7兆8899億円も減少したからです。「大切な年金保険料で大損を出した官僚真っ青」「言い訳に終始する運用報告」というような見出しをネットで見た人も多いことでしょう。
しかし、今回の運用のマイナスについてはほとんど焦る必要がありません。むしろ、ここで大騒ぎをしている連中は、資産運用のことを何も分かっていない可能性が高いといえます。あるいはとにかく国のやることは悪いことだと大声をあげるようなタイプです。リンク先をチェックすると、そういうメディアではなかったでしょうか。
しかし「８兆円も損を出したのだから、これが問題ないわけがない！」と思う人も多いはずです。そこでマネーハック的観点から、なぜ問題ないか解説をしてみましょう。それはあなた個人の運用を行う際にもとても役立つヒントになるはずです。
「売って損を出す」と「売らないがマイナス」はちょっと違う
まず、今回の損は「売ったら8兆円損をしました」ではない、ということです。おそらくニュースのタイトルくらいしか読まなかった人のほとんどと、投資をしたことがない人のほとんどは「8兆円マジで損したバカな年金運用担当者」というイメージがあったと思います。こういう損は「実現損」といいます。しかし、今回の損の実態は「売ってはいないが買ったときより価格が下がっているのでマイナス」がほとんどを占めています。確かに株価は値下がりしていますので損失が生じている状態です。しかしまだ売っているわけではありません。このまま放っておいて株価が戻れば何も問題ないことになります。こういう損失の状態を「含み損」といいます。実は8兆円のほとんどはこっちなのです
投資をしたことがない人のほとんどは「実現損」と「含み損」の違いが分かっていません。あるいは同じものだと考えてしまいます。しかし、この２つはまったく意味合いが違います。
「実現損」は実際に損失が確定しています。100万円で買った株が90万円になってあわてて売った人は「マイナス10万円」が実際に生じています。もしここから100万円に戻したければ「10万円の儲け」を出さなければなりません。もっと正確にいえば「最初に買って売った売買手数料＋もう一度チャレンジして買ってその後売った売買手数料」がかかる分、売買手数料は１往復分多くかかります。
また90万円を100万円に増やしても利益の20％に税金がかかるため、98万円までしか増えていません。実は90万円を102.5万円まで増やしてようやく100万円に戻ることができるのです（先ほど説明した売買手数料も考えると実際には103万円以上にする必要がある）。
もちろん「実現損」を出したあと、株が怖くてもう手を出さなかった場合は、これ以上減ることもない代わりに、100万円に戻ることも永遠にありません。こちらはもう損失が確定したということです。
これと「含み損」はまったく違います。先ほどの例で言えば100万円の株が90万円に値下がりしているとき、実際に売る（実現損を出す）のと、まだ売っていない（含み損を抱えている）というのは同じマイナスでもまったく意味合いが違うからです。
「含み損」はまだ売っていないわけですから、そのまま持ち続けて株価が戻ればまず含み損の金額が減少します。買ったときと同じレベルに株価が戻れば含み損はゼロになります。その後株価が上がれば何もしなくてもプラスに戻る、ということになります。
このあいだ、売買手数料は何もかかりませんし、税金も生じません（実際に売ったときはじめて税金がかかるため。なお、損をしたときはかからない）。
先ほど102.5万円＋売買手数料分稼ぎ直さないと100万円に戻らないと説明しましたが、何もしない「含み損」のまま株価が戻るまで放置しておけば、単純に100万円まで株価が戻るだけでＯＫということになります（売買手数料も１往復のみでよい）。
実際に売ってしまった「実現損」と比べて、「含み損」には何もせずそのまま待つ、という選択があるわけです。
投資の素人あるいは未経験者はここが区別できていないのです。
