パワーは必要十分だが
さて、今回試乗したFF仕様のFIAT500Xは、1.4Lマルチエアターボが搭載されている。140ps/5000rpm、230Nm/1750rpmというスペックは驚くほどパワフルではないが、高速道路から急な登り坂が続く山岳路まで、もっとパワーが欲しいと感じさせることはほとんどない。
ただし、1人乗車だったので確認できなかったが、4人乗車+多めの荷物となるとワインディングなどではやや物足りなさを覚えることもあるかもしれない。
だが、FFモデルに組み合わされる6速DCT(4WDは9AT)をパドルシフトでマニュアル操作するか、「ドライブムードセレクター」を使って「スポーツ」モードにすれば状況に応じたスポーティな走りも得られるから、非力な走りにがっかりすることはないはずだ。
また、6速DCTの完成度は、フォルクスワーゲンのDSGなどと比べるとやや物足りなさが残る。市街地走行では4速までしか入らないシーンが多く、とくにシフトアップ時のショックも大きめだ。慣れてくるとアクセルの踏み方でスムーズになるが、デュアルクラッチというよりもシングルクラッチのフィーリングに近い。国産車のATやCVTから乗り替えると最初に戸惑う点かもしれない。
中低速域の乗り味はもう少し
乗り心地も改善の余地がある。プラットフォームを共有するジープ・レネゲードと似た乗り味なのは当然として、低速域から高速域まで前後・上下・左右に揺すられる感覚で、とくに中・低速域ではボディがフラットに落ち着くようなシーンが少ないほど。
ハンドリングは街中では思いのほかスポーティに感じる美点がある一方で、山岳路などのコーナーではやや大きめのロールを許すなど、重心の高さを感じさせる。しかも、前後席ともにアップライトに座らせるシート設計だからなおさら強調されるのかもしれない。
しかし、コーナーでは大きめ姿勢変化をしながらも「粘る足」のおかげで、恐怖心を抱かせるようなことはない。慣れてくればそれなりにリズミカルに走れるし、速さはないがFUNといえる走りを披露してくれる。
デザインやカラーリングに惚れたら買い!
率直に言って突っ込み所もある走りだが、それでも内・外装のデザインやカラーリングなどに「惚れてしまう」人も多いだろうし、気に入ったら指名買いしても後悔しないだろう。
FIAT500Xの真骨頂はまさにそこにある。数多あるCセグメントモデルはもちろん、コンパクトSUVも兄弟車のジープ・レネゲードを含めてライバルも多いが、先述したようにほかにはない個性と、ファミリーでも使える実用性も備えているのがFIAT500Xの大きな魅力。
車両価格ならFIAT500Xに軍配!
対する最大のライバル、MINIクロスオーバーはドイツ車らしいしっかり感のある走りが特徴で、こちらも乗り心地には改善の余地が残るが、フラットライドならMINIクロスオーバーの勝ち。さらに、ディーゼルを設定するのも強みで、トルクフルな走りや軽油で済むランニングコストなども、プレミアムガソリンを指名するFIAT500Xよりも優位といえるだろう。
ただし、FIAT500Xは、FFモデルなら300万円を切る価格設定で、輸入車の4WDのSUVとして最も廉価な価格設定は見逃せない。とくに4WDはディーゼルを積むMINIクロスオーバー ALL4よりも30万円近く低い設定になっているから両モデルを購入候補としている人には悩みどころかもしれない。