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パーヴォ・ヤルヴィ、NHK交響楽団指揮者インタビュー(2ページ目)

現代最高の指揮者の一人、パーヴォ・ヤルヴィが、NHK交響楽団の首席指揮者に就任。N響の印象や、録音プロジェクトが進行しているリヒャルト・シュトラウスについて、今後の演奏予定、影響を受けた指揮者まで、インタビューしました。

大塚 晋

執筆者:大塚 晋

クラシック音楽ガイド

今後の来日予定、影響を受けた指揮者

大:今後は2015年12月にベートーヴェンの第九、2016年2月に定期公演でマーラー、ブルックナー、ニールセンなどが予定されています。ニールセンについては、フランクフルト放送響と録音したものが間もなく発売されると聞きました。
ニールセン

ニールセン:交響曲全集

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P:はい、2015年12月(筆者注:解説のついた国内盤は2016年1月発売予定)にニールセンの交響曲全集のCDを出します。

大:全集を聴いた後で、実演を聴けるのは良い機会ですね。

P:ニールセンは聴かれるべき20世紀の重要な作曲家だと思います。ニールセンの音楽は3小節聴けば「絶対にニールセン」と分かる。それはプロコフィエフもそうですが、独特の音色とハーモニーがあるのが本当に偉大だと思います。ニールセンは時代に先んじていた作曲家で、作風は先鋭的ですが、音楽語法は交響曲的(シンフォニック)。交響曲第3番「ひろがりの交響曲」や交響曲第4番「消し難きもの(不滅)」は、例えばストラヴィンスキーの『火の鳥』『ペトルーシュカ』『春の祭典』などと同時期に書かれていますが、そうした周りの動きに全く影響されていない。自身のスタイルが確立されていてとてもオリジナル。周りに左右されず自身の独特のスタイルを生み出していくこと、それは偉大な作曲家の証だと思います。

大:他に2月のプログラムでオススメは?(公演詳細はこちら)

P:ブルックナーの交響曲第5番は大好きな曲です。フランクフルト放送交響楽団とレコーディングしたアルバムをソニーから出しています。マーラーの『亡き子をしのぶ歌』は、マティアス・ゲルネが歌ってくれるのですが、彼は私の友人でもあり、本当に優れた歌手です。シューマンのピアノ協奏曲はカティア・ブニアティシュヴィリが登場します。若手で、とても良いピアニスト。若手No.1くらいだと思います。詩的でテクニックがあって、リラックスもしていてタッチも見事。彼女は恐れがなく、どんどんパワフルにやっていけるのがまた素晴らしい。そしてその同じ言葉はブラームスのヴァイオリン協奏曲を弾くジャニーヌ・ヤンセンにも当てはまります。彼女の世代でNo.1の素晴らしいヴァイオリニストですね。卓越したソリスト3人と演奏できる素敵なコンサートになると思います。

大:確かにソリストも豪華ですね。ところでパーヴォさんは、最近の録音を見ても、N響だけでなく、先ほど話に出たフランクフルト放送響とのニールセン、パリ管とのラフマニノフの交響曲、エストニア国立響とのショスタコーヴィチの『森の歌』などなど、様々なオーケストラで様々な演奏をしていますがどう切り替えているのですか?

P:オーケストラそれぞれの性格があって全く違うので、悩んだり混乱したりすることは特にないのですよ。ロシア・ナショナル管弦楽団とはショスタコーヴィチの交響曲第7番の録音をしましたが、彼らはとてもパワフルで、一度始まったらそれ以外のことは考えられません。各オーケストラにあった演奏をしていますので、音楽に一度入ってしまえば大丈夫ですよ。

大:なるほど。それにしてもそんな多忙な中でも、どの演奏を聴いても、他で聴いたことのない音楽に出合い感銘を受けます。常識に捉われない、どのような楽譜の読み方をされているのでしょうか?

P:様々なオーケストラで様々なことをやっているという話と繋がるのですが、違うレパートリー、違うスタイル、違う時代のことをいろいろやっているわけです。例えば、現代音楽の新作もやりますし、ベートーヴェンもやりますし、デュティーユにラフマニノフにと、様々な時代や様式の作品を取り上げることで、逆に多くのことを学べるのです。幅広く演奏する方が、健康的でもありますし。ブルックナーもマーラーもリヒャルト・シュトラウスも、同じベートーヴェンというルーツを持っています。もちろんそれぞれの作曲家の音楽は異なるのですが、バッハやベートーヴェンに始まる伝統の延長線上にあり、何もないところから突然発生的に登場したわけではないのです。ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、シューマンと、一つの連続性があり、伝統が継承されてきているのです。

その意味でラフマニノフとショスタコーヴィチ、ドビュッシーとストラヴィンスキーは繋がっている。シュトラウスとリムスキー=コルサコフも繋がっている。フランスの作曲家からロシアの作曲家に繋がっていても、皆ドイツの偉大な作曲家を学んでの人たちなので、全部最終的に繋がっている。ですから、幅広くレパートリーを持つことで逆にそれぞれの作曲家のことがよりよく理解できると思うのです。

私も今や多くの経験を積んだ指揮者になりましたが、10年前や20年前はもっと「ああ演奏しようかな、こう演奏しようかな」と意図的なことを考えていましたし、若い指揮者というのは「フルトヴェングラーなどの偉大な先達はこうやっていたけれど、これで良いのだろうか?」と心配したりもしますが、今私は自分の頭で考えるよりも、自分の心、本能的なことを信じるようにしていて、特に本番の演奏では、本能に沿っていくようにしています。しっかりと自分が聴きさえすれば、音楽そのものが何をやればいいか教えてくれるので「他の人がどう解釈している」といったことに捉われずにできます。それはとても大事なことだと思います。

大:影響を受けた指揮者はどなたです? お父さんと師事したバーンスタインとか?

P:おっしゃるとおり、父とバーンスタインはトップの2人ですが、「この人いいなぁ、今度はあの人いいなぁ」というのはずっとあるんです。私がカーティス音楽院で学んでいたときにオーケストラの指導に来ていたムーティや、本当に素晴らしい指揮者で歌わせるのがとても上手で指揮そのものの自然さというのを学んだサヴァリッシュ。クライバーは曲そのものを演じてしまうかのような指揮ぶりが素晴らしいと思いました。いろいろな人から少しずついろいろな要素を取り入れているのです。小澤、カラヤン、ロジェストヴェンスキー、ヨッフム、クーベリックなど本当にいろいろいますが、No.1はやはり父ネーメ・ヤルヴィです。

大:一番尊敬できるのがお父さんというのは素晴らしいですね。弟のクリスチャンも指揮者で妹のマーリカもフルート奏者ですが、家族でアドバイスし合ったりすることってあるのですか?

P:もちろん。家族がとても仲良いので、いつも会うと音楽の話ばかりしていますよ。父はものすごく経験のある指揮者なので、いつでも私たちの先生であり、いろいろなことを教えてくれます。

大:音楽以外の趣味や気晴らしはありますか?

P:音楽が気晴らしです(笑)。音楽が趣味。それと、日本食は好きですよ(笑)。特にウニね(笑)。

大:N響の首席指揮者になって来日も増えるでしょうから、今後もご堪能ください(笑)。ところで、パーヴォさんは演奏も体も引き締まってますが、運動とかはされないのですか?

P:特にしません。ですが、ふふ、指揮が全身運動なのですよ(笑)。

*****

ということで、思いの他、とても気さくで雄弁なパーヴォさんでした。実際N響との共演を観ていても、とても集中していますが、リラックスした自然体でもあり、本当に音楽をよく聴き、豊富な経験から冷静に上手に音楽を組み立てている、という印象を受けました。

今後も続々と生み出されるであろうパーヴォさんとN響が生み出すマジックの数々が楽しみです。

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