ワインみたいに品種別で楽しめる芋焼酎!
ご存じだろうか。サツマイモの種類によって、できあがる芋焼酎の味わいがかなり違うことを。ワインは、ブドウの品種によって、色も香りも味わいもかなり違っていて、それがワインの楽しみであることはよく知られている。品種を覚えれば、ある程度ワインの味もわかる。
しかし、同じ醸造酒の日本酒は、米の品種が違っても、ワインほどの大きな違いが感じられず、そのあたりの面白みがあまりない。ましてや蒸溜する焼酎は、麦焼酎でも米焼酎でも黒糖焼酎でも泡盛でも、細かい原料品種の違いはほとんど感じられない(ときに米焼酎と麦焼酎の違いさえもわからないこともあるほど)。
ところが、芋焼酎はまるでワインのように原料品種の違いによって焼酎そのものもかなり味が違うのだ。つまり、芋焼酎は好みの品種がわかれば、おのずと好みの焼酎を選べるということ。なぜか。それはブドウ同様サツマイモは“青果”である点がその理由のようだ。
勉強会には長崎、鹿児島、香港、シンガポールからの参加者も
先日行われた、酒類全般に関してプロフェッショナルなテイスターを育成する「FBOアカデミー 専属テイスター育成セミナー」にて『サツマイモの品種違いの芋焼酎きき酒勉強会』を体験したものをまとめてみる。
……と、その前に、少しお勉強。
そもそもサツマイモとは
これだけの違う種類の芋と焼酎を一気に飲む機会はほとんどない
日本には中国や東南アジアを経由して1604年に琉球に伝わり、そのさらに100年後種子島に伝わり、18世紀初頭に薩摩藩が栽培を始めた。その後飢饉を救う重要な食材として関東でも栽培されるようになる。
中国から伝わったということで琉球や鹿児島では「唐芋(カライモ)」、関東では薩摩から伝わったということで「薩摩芋(サツマイモ)」と呼ばれる。
芋焼酎の歴史は一見古いようだが、芋の伝来から見れば芋焼酎は18世紀以降の焼酎。それ以前は米焼酎、麦焼酎、粟・稗、黍などの原料の焼酎が主流で16世紀より存在している。芋焼酎は比較的新しい焼酎といえるかもしれない。
平成23年全国のサツマイモ生産量ランキング(農水省統計データより)
収穫は8月から11月。収穫の後2~3か月保存し水分を逃がしてからのほうがぐっと甘くなる。保存は常温で。
栄養価は「食物繊維」、便秘改善にいい「ヤラピン」(切った時に沁み出る白い液体)、「カリウム」「アントシアニン」「ビタミンE」「カロテン」など。
サツマイモの品種別の味わいと焼酎の特徴
品種別の芋焼酎の味わいを以下にまとめてみた。美しい色とりどりの12種のサツマイモ、味比べは面白い!
2、特徴と蒸した時の味わい
3、その品種で造られた焼酎の銘柄
4、焼酎の味わい
この順で紹介しよう。
1、黄金千貫(コガネセンガン)
2、色は「白系」。焼酎原料の奨励品種。「黄金色の芋がザクザクとれる」ということから命名。甘さが少なく落ち着いた味わい。色同様じゃがいもに似ている感じで、緻密な組織でむっちりとした食感。栗っぽい。
3、
a さつま白波(薩摩酒造(株)/枕崎市)
b 森伊蔵(森伊蔵/垂水市)
c 桜島 2015年新酒(本坊酒造/南さつま市)
4、
a 落ち着いた味わいで、ふくよかさとなめらかさがあり余韻も長くバランスがいい。
b 華やかでキャンディの様な風味。なめらかな舌触りですっきりとしている。
c 新酒らしい強さがあるがなめらかさもありきつくはない。香ばしい後味が印象的。
黄金千貫
1、しろさつま
2、色は「白系」。一個が大きい品種。主に屋久島、種子島で生産。甘さ少なくやさしい味わい。中盤から自然な甘さがでて後味にも甘さが残る。ほっくりとした食感。
3、南泉(上妻酒造(株)/熊毛郡)
4、フルーティで植物的なフレーヴァー。とても繊細な味わい。非常にドライな印象。後味はすっきり軽快。
しろさつま
1、クィックスィート
2、皮が赤色で中身が黄色のいわゆる「赤系」。電子レンジでチンしても石焼き芋の様な甘さを楽しめるように開発された品種。繊維質が感じられみずみずしい印象。軽い甘さで食べやすい。
3、甘薩摩(薩摩酒造(株)/枕崎市)
4、甘い香りが際立つ。なめらかで優しい舌触りで女性的。飲みやすい。
クィックスィート
1、こなみずき
2、「白系」。2013年生まれの新品種。和菓子の材料としても人気。非常にみずみずしく、まるで長芋のようにシャリシャリした感じ。繊維質がはっきり感じられる。
3、貴匠蔵 こなみずき(本坊酒造/鹿児島市)
4、香りはとても甘く女性的だが、味わいはピリリと刺激があり非常にドライ。癖があまりなくすっきり軽快。強い個性は感じられない。
こなみずき
1、べにはるか
2、「赤系」。食味に優れた品種として人気。やわらかくみずみずしく甘い。後味が焼き芋的な感じで甘さがたっぷりと残るが、スッキリとした甘さ。
3、さつま若潮(若潮酒造/志布志市)
4、本滓赤い香りと植物的な香り、土っぽさ。少し癖がある。味わいは優しくなめらか。後味にも甘さが残る。
べにはるか
1、紅さつま
2、「赤系」。5月下旬には誌にもとして出荷できる新酒。水分が少なく栗のようにほっくり。落ち着いた味わいで滋味豊か。美味しい。
3、大和桜(大和桜酒造(株)/いちき串木野市)
4、なめらかでコクがあり、ふくよかな味わい。後味にチョコレートのような甘さ。「赤系」品種は焼酎の後味に甘さがたっぷりと感じられるようだ。
紅さつま
1、ハヤトイモ
2、皮ととくに中身が「オレンジ系」。鹿児島の在来種。「にんじん芋」の別名も。水分は多いが全体にねっとりとして後味にたっぷりの甘さ。
3、薩摩隼人(国分酒造協同組合/霧島市)
4、芋そのもののイメージとは違う香味。香りがフルーティでフラワリーでハーブの様な青々しさも。アフターに苦味。
ハヤトイモ
1、安納芋(アンノウイモ)
2、「オレンジ系」。種子島の特産品。イメージより甘くなく落ち着いた風味。繊維質が感じられるがねっとり感も。全体にジューシーな印象。
3、安納芋(吹上焼酎(株)/南さつま市)
4、植物的な香りが強い。口中では甘い香りが鼻に抜けるが、後味には苦味が。強い味わい。
安納芋
1、安納こがね
2、「オレンジ系」。種子島の特産品。表皮がいくぶん白目。色のイメージかオレンジの様なフルーティさがあり、ねっとりとして甘味が強い。芋だけで美味しい。
3、しま安納(高崎酒造/西之表市)
4、香りが華やかで甘い。味わいもコクがありまろやかでなめらか。後味に心地いい香ばしさ。蒸した芋そのものとも素敵な同調。美味しい。
安納こがね
1、種子島ゴールド
2、表面は白系、中は淡い「紫系」。種子島特産。スイーツの原料としても人気。非常にきれいな色合い。きめ細かい繊維でネットリしている、不思議に酸味も感じられるような印象。深みのある味わい。
3、紫育ち(四元酒造(株)/熊毛郡)
4、落ち着いた中に甘い香り、なめらかでクリーミーな舌触り。中盤からはぐっと飲み応えのあるボディ感。アフターにはフルーティさと香ばしさがあり心地よく複雑。
種子島ゴールド
1、えいむらさき
2、濃いめの「紫系」。南九州市頴娃町産。甘さが穏やかでほっくりとした食感。ハーブやスパイスの風味も。味わいには苦味も。
3、薩摩富士(濱田酒造(株)/いちき串木野市)
4、植物的な強い香りとフルーティさが個性的。が、味わいの線は細い。ドライで後味に苦味。シャープな味わいが特徴。
えいむらさき
1、むらさきまさり
2、濃いめの「紫系」。お菓子や飲用酢の原料としても人気。甘さ少なく落ち着いた味わい。ほんの少しフルーティさと植物的なフレーヴァー。後味に苦味あり。
3、明月 まさり(明石酒造(株)/宮崎県えびの市)
4、華やかでフルーティ。味わいの線は細いく、ドライ。後味に渋味を感じるようなイメージ。蒸した芋と一緒だとさらにフルーティ。
むらさきまさり
以上から、
「白系」→ふくよかさとなめらかさとバランス
「赤系」→優しく女性的
「オレンジ系」→フルーティで華やか
「紫系」→フルーティで渋味と苦味、コク
と、まとめられそうだ。
この日はナチュラルチーズとの組み合わせも体験