若くしてパパになり早死にするとトクだがうれしくない
保険料を納めた額より給付のほうが明らかに上回るシチュエーションを考えると、それほど長い期間保険料を払っていなかったにも関わらず若いうちから年金をもらえるケースがあります。障害年金と遺族年金です。病気やケガなどに起因して日常生活に支障が出るような障害が残ったとき、障害年金がもらえます。これは一生もらい続けることができますので、若い人なら納めた保険料額を超えて年金額が上回ることのほうが多いものです。
あるいは子どもがまだ小さいのに死んでしまった場合、子どもや妻に対して遺族基礎年金や遺族厚生年金が支払われます。これもケースによっては何千万円になる水準で、納めた保険料以上になることがしばしばです
しかし、これは「得」と軽々しくいうものではないことは誰でも分かります。これは社会のセーフティネットとして大事な仕組みであるものの、自分が死んだあと妻と子に保険料以上の年金が振り込まれることになるからです(遺族年金の場合)。
人よりちょっと長生きすることが損得論にはもっとも有効
もうひとつ、シンプルに得をするシチュエーションがあります。それは「長生き」です。よく、世代別の損得などを示した試算表がありますが、若い世代ほど損だと言われます。しかし男女別で試算表をよくみてみると、男性が明らかに損をしていて女性が明らかに得していることが分かります。
理由は簡単です。女性のほうが長生きするからです。
日本人の男女の平均寿命は6.3年違いますが、これくらいの期間長生きをすると、そのあいだずっと年金をもらいますし、医療サービスや介護サービスも受けます。ので、簡単に1000万円くらいの差がついてしまうわけです(国の制度については、男女で保険料は同一で給付も同一条件です。民間の保険では女性の保険料を割高にすることもあります)。
平均寿命がそうだったとしても、早く死んでしまう女性がいれば、長生きする男性もいます。もちろん、長生きする年齢なんかそのときになってみなければわかりません。そんな数年の違いで解消されてしまう微妙なレベルに損得問題はあるのです。
だとすれば、人よりちょっと長生きすることが損得論で得する側になるためのポイントです。女性はすでに損得論ではあまり心配ないところにいますので、今より長生きすれば長生きするだけお得になります。男性は平均寿命程度では損をする人が多いので、そこから5年を目標に長生きすることがポイントになります。
30~40歳代で飽食を謳歌、運動もしていないようなメタボな読者はまずは健康管理を考えてみることです。どんな世代間不公平があっても、95歳くらいまで長生きすればすっかり消え、保険料以上の年金をもらう立場になるはずです。
冷静に考えるとこれは損得というより長生きした人を守っている仕組みでもある
冷静に考えてみると、この議論は年金という仕組みの凄さを示してもいます。平均以上に長生きした人に対して「あなたは保険料以上の年金受け取りになったので、支払いはストップしますね」としないわけですが、考えてみるとこれはすごいことです。民間の金融商品ではそういう損が生じないよう、平均以上に長生きしてようやくモトが取れるような金額にしたり、女性の保険料を男性より高く設定します。
長生きすると得をする、という仕組みは、損得というよりも長生きした人の経済的安定を守っている仕組みでもあるわけです。それは損得論よりも大事な国の制度の役割なのです。
年金で得をすることを考えていたら、年金制度はいい制度であった、ということを確認することになりました。11月は国も「ねんきん月間」としており11月30日は「ねんきんの日」でもあります。マネーハックのコラムも、年金について考えてみた次第です。