フランスでは温泉が医療?
早坂:前回はフランスのお風呂事情などを伺いましたが、フランスでは温泉に医療保険が使えるとのこととでしたね。どういうことなのでしょうか?
ジュアンド(一般社団法人SPALOHAS倶楽部):
年間3週間まで公的保険適応で毎年温泉での療養が可能です。もちろん単なる観光とは異なります。医師の診断書と一度に同じ温泉地に3週間(日曜を除く18日間治療)滞在するのが必要条件となり、温泉療法費の65%が保険で還付されます。
糖尿病、ダイエットで有名なフランス・コントレックセヴィルのテルメ(写真提供:フランス・コントレックセヴィル テルメ)
そのような温泉療養ができる温泉地はどれくらいフランスにあるのでしょうか?
ジュアンド:
温泉地数は89で、温泉治療を行うテルメは105か所、源泉は700-800か所あります。日本より温泉地の数はずっと少ないです。
フランスの温泉療養で、医療保険が適応されているのはこんな人たち
早坂:保険で温泉療養しているのはどんな方ですか?ジュアンド:
すべての病気が保険適応になる訳ではなく12の療養対象疾患が決まっています。CNETh(フランス温泉療法開発評議会)によると、年間55万人の利用者(2014年)がおり、60歳以上が68%を占めています。
利用される疾患は関節リウマチ 77.2%、呼吸器疾患8.3%、血管疾患3.4%、消化器官3.2%となっており、リウマチでの利用が最も多くなっています。
温泉療養に医療保険が使える意義とは?
早坂:日本では温泉療養には医療保険は使えません。そのため、医師の関心も低くなってしまいます。フランスで温泉療養に医療保険が使える社会的な意義はなんでしょうか?
ジュアンド:
CNEThによると、温泉療養にかかわる全保険費用は2億5000万€ですがこれは全医療保険予算の0.2%未満にすぎません。一方、温泉リゾートの生産額は10億€(温泉療法に関係する産業:温泉療法テルメ、医師、宿泊施設、食事/レストラン、療養患者によるレジャー費など全体で)にのぼり、大きな経済効果になっていることが分かります。
フランス発の温泉医学研究が盛んな訳は?
フランス・コントレックセヴィルのテルメのアフュージョンマッサージと呼ばれるシャワーマッサージ(写真提供:フランス・コントレックセヴィル テルメ)
日本では関連医学会が温泉療養について医療保険の適応の要望を毎年国に出しているようですが、国民医療費増加の折、なかなかうまくいかないようです。しかし、医療費だけでなく地域への経済効果の面で考えるのも必要ですね。一方、最近フランス発の温泉療養に関する医学論文をよく目にしますが。
ジュアンド:
そのとおりです。温泉利用で得られた利益の一部を民間関連団体経由で学術研究に活用する仕組みがきちんとできており、温泉療養に関する研究も盛んです。科学的エビデンスがないと保険適用にも理解が得られません
早坂:
温泉研究ができる仕組みが確立されているのは、私のような温泉医学の研究者からすればうらやましい限りです。
我が国は温泉に非常に恵まれた国であり、他の諸国と比べて圧倒的に多く、その温泉地数は全国で3,159 か所、源泉数は27,405か所(環境省2014)もあります。インタビューを通して、もっと日本でも温泉が医療に有効活用できればよいと感じました。