アドバイス1 収入が少なくても長期間働きたい
多くの持病の治療費で支出が増え、通院が重なり仕事も休みがちとなるため、収入も上がっていかない。当然、老後資金をどの程度用意できるかも見えてはきません。その意味で、不安になるのは当然です。そこでまずは老後に向けて、現状できることを考えてみましょう。家計については、工夫できるところ、削れるところはしっかり実践していると思います。一方、「ペットのエサ代や自分のおやつ代などがかさむ」とのことですが、ペットを飼うこともおやつを食べることも、ストレスをためないための生活の大事な「遊び」の部分のはず。それは決して無駄な支出ではありません。無理に削らず、上手にやりくりしてみてください。
働き方については、まずは病気治療が優先するでしょう。と、同時に健康に考慮しつつ、継続して働けるのなら、ご本人が希望されているとおり、頑張って同じ職場で定年まで勤務することが望ましいでしょう。職場も通院などの事情を考慮してくれている。その意味では勤務先に恵まれたとも言えますし、今後、正社員での転職は難しいとなれば、なおさらでしょう。
また、現在の勤務先の定年が60歳としても、もし体力的に可能であれば、パートで構いませんので、1年でも長く働くことが重要になります。多くの世帯に言えることですが、老後資金は現役時代にすべて用意しようと思っても、なかなか難しいのが現状です。ならば、定年後も収入を得ることで、用意した手持ち資金をなるべく減らさないこと。とくに公的年金が受給できる65歳までは、少額でも収入があることが、大きな老後対策になるのです。
アドバイス2 年金受給の繰り下げで年金額を増やす
実際に老後を迎えてからは何ができるでしょうか。先に60歳以降もなるべく長く働くことが望ましいと言いましたが、実際に働くことができたなら、老齢基礎年金の繰り下げ受給、つまり65歳から始まる受給を先に伸ばしてはどうでしょう。
メリットは、1ヵ月繰り下げるごとに0.7%受給額が増額されるということ。仮に66歳0ヵ月まで伸ばすと増額率は8.4%、67歳で16.8%、68歳で25.2%になります。当然ですが、生活資金が足りない状況での繰り下げは意味がありません。また、それにより受給総額が通常受給よりも多くなるには、ある程度長生きすることが条件(目安として66歳受給で78歳)となります。それでも、受給額そのものを増やす方法であることには間違いありません。
老後に向けてのプラス材料もあります。ひとつは、相談者自身が現時点でかなりコストを抑えた生活ができている点。高齢になって、生活スタイルを無理に変える、大幅な節約が必要となるといったことが避けられます。
もうひとつが、住居が確保されている点。親御さんのマンションを相続すると、維持管理等のコストとして月額4万5000円が発生するとのことですが、実際にその頃は相談者自身の生活費も今より下がっていますので、決して負担できない額ではないと思います。
アドバイス3 個人年金保険のメリットを活かす
老後資金の貯め方についてですが、貯蓄ペースは現状維持が基本。これ以上、何かを削ることは無理ですし、その必要もないでしょう。気になるのは、最近始めた年金財形貯蓄。確かに、天引きによって貯まってはいきますが、貯蓄商品としての利回りはかなり低いと言わざるを得ません。であれば、個人年金保険に切り替えるのも、選択肢のひとつだと思います。予定利率は決して高いとは言えませんが、それでも年金財形貯蓄よりも大きく増えるでしょう。また、個人年金保険料控除はすでに1本加入しているため、新たに加入してもこれ以上の控除(所得税4万円、住民税2万8000円)は受けられませんが、加入することで「手元に資金があると、ついつい支出してしまう」という習慣の歯止めと資金づくりの継続性、確実性を高めるという利点もあります。
最後にもうひとつ。困難な持病を抱えているということで、国や自治体の支援制度が受けられないのでしょうか。個人的に調べるより、専門の社労士に相談する方が確実です。市町村や社労士の団体が主催する無料相談会を利用してもいいでしょう。もしそういう相談をまだされていないなら、ぜひ一度してみてください。
相談者からいただいた感想
深野先生の助言を頂き、ありがとうございました。「まだまだ削れる部分があるから、考えが甘い」というご指摘がある、と私は想像していたので、コストを抑えている。というお褒めの言葉があって正直驚いています。「下層老人まっしぐらですよ」しかなかったのです。職場は、高齢者雇用も率先しているので、先生のアドバイス通りパートであっても定年後まで働けると本当にいい職場なのですが、万が一に備えて、自治体の無料相談や就職支援の助成があるか一度は将来的な利用も含めて相談してみたいです。指定難病は現時点は寛解で症状が落ち着いているので、医療費補助申請は受けられません。両親もペットも老後を迎えたら病気をしますし、自分の持病で思うように貯蓄ができず、独身であることにも不安いっぱいで応募を決めましたが、現在の生活水準は問題がなかったこと、無理せずに老後への貯蓄も保ち、個人年金のお得な方向へ見直し……という先生のお言葉がいただけて心が軽くなりました。これで安心せずに、心機一転で簡単な家計簿を作成して、体調管理にも気を配って少しでも長く働けるようにしていきたいです。本当にありがとうございました。
教えてくれたのは……
深野 康彦さん
取材・文/清水京武
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