阿藤さんが一躍お茶の間での認知度を上げたのが1988年に田原俊彦さん主演でオンエアされたフジテレビ系列のドラマ『教師びんびん物語』でした。教頭・御前崎役を演じ、”怖い悪役”から”トボけた味も出せる貴重なサブキャラ”として更に多くの映像作品に出演。俳優として確固たる地位を築いていきます。
そして「しょっぱいものはしょっぱい 辛いものは辛い」と、一般の方にもズバッと感想を言う正直さとあたたかみとが受け、リポーターとしても活躍の場を広げて行った阿藤さん。そんな彼がある時、自身のルーツでもある「舞台」で大きな挑戦をする決意をします。
演出家の熱意に応えて出演を決めた
シアターコクーン『幽霊』
その挑戦とは、2014年に渋谷のシアターコクーンで上演されたイプセン・作『幽霊』への出演。19世紀に多くの作品を発表し「近代戯曲の父」とも称されるイプセンの作品は難解なものも多く、本作も宗教問題や近親相姦といったかなりハードな内容が含まれる戯曲です。この舞台に阿藤さんは安蘭けいさんや松岡茉優さん、忍成修吾さんらと共に出演。ガイドも初日に観劇したのですが、暗い色彩の中、地に足を付けて生きる大工のエングストラン役を阿藤さんは好演していました。ただ、リポーターをはじめ、いまや映像作品の人という印象が強い阿藤さんが舞台?……それもなぜイプセン?と、その時は不思議に感じたりもしたのですが、実はこれ、気鋭の演出家・森新太郎さんの強い推しがあってのキャスティングだったそう。以前阿藤さんが出演した映像作品を観た森さんがその演技に感銘を受け「自分が演出する立場になった時には絶対に彼をキャスティングしたい」と熱望し、その思いから出演が決まったとのこと。
阿藤さんも新進気鋭の演出家である森さんの思いに応えようと、インタビュー等では森さんの演出法を常に褒め『幽霊』の打ち上げでも、如何に森さんが凄いかということを熱く語っていたそうです。
弁護士を目指し、法学部に通っていた青年が「面白そうだから」という理由で舞台の世界に入り、もう辞めようと決めた時に裏方から俳優への道に導いてくれる人が現れ、その人柄からリポーターとしても名を成していく。
阿藤快さん……今頃、「兄貴」と慕い、自らを俳優の道に押し出してくれた原田芳雄さんと、天国で好きなお酒を酌み交わしていることでしょう。