疲労回復法/お風呂・温泉を使った疲労回復法

冬のお風呂が突然死につながるメカニズム

日々、寒くなってきて、温かいお風呂が恋しい季節になってきましたね。しかしながら、お風呂で体調を悪くする人が増えるのも冬です。どのような点に気を付けてお風呂を楽しめばいいのでしょうか?

早坂 信哉

執筆者:早坂 信哉

医師 / お風呂・温泉の医学ガイド

冬のお風呂には危険な一面があります。研究機関による入浴に関連した死亡者数の推定は、1年間で1万7千人~1万8千人とも言われています。その数は冬に圧倒的に増え、特に高齢者に多いのもその特徴です。

ある冬の夜に、テレビ番組の撮影として、若い男性アナウンサーに普段通り家でお風呂に入る様子を再現してもらい、その血圧の変動を確認しました。

「寒い、寒い!」裸で腕に血圧計をまいた彼は、そう言って脱衣室でガクガクと震えていました。その血圧は150mmHgを超えています。先まで暖房の効いたリビングに居た時は110mmHgだったので、プラス40もの急上昇です。

脱衣室には暖房がなく、リビングよりも10度ほど低い室温でした。

実は冬にお風呂で亡くなる方が多いのは、この血圧の変化が原因。今回はその体内でのメカニズムと、気持ちよくお風呂に入るための注意点を解説いたします。

ポイントは脱衣室と湯の温度

寒い日のお風呂

気温の急激な変化は、私たちの体に大きな負荷を与えます

脱衣室を暖房している家庭はむしろ少ないかもしれません。真冬ではリビングと10度以上温度差があることも普通だと思います。

そのような寒い脱衣室で裸になると、強烈な寒さが寒冷刺激となって交感神経を刺激します。体はこの非常事態に対して血管を収縮させ、急激に血圧を上げて対応しようとします。

また脱衣室の寒さに加えて、42℃を超える高温のお湯に入ってしまうと、さらに血圧が急上昇します。寒い日は体を温めたいということで、ついついお湯の温度を高めに設定しがちです。

裸になってドボンと熱いお湯を張った湯船に飛び込むと、今度は一気に温熱刺激によって体に負担がかかります。すると、寒冷刺激と温熱刺激のダブルの効果によって、血圧が急上昇してしまうのです。

血圧が急上昇するリスクとは

近年よく耳にする「ヒートショック」は、これらの刺激による血圧の変化が引き起こす健康被害のことを意味しています。血圧の急上昇は脳出血のリスクとなるのです。

若い人ですと、動脈が柔らかく、血圧が上昇したところで、柔らかいゴム管のように圧を吸収してうまくやり過ごすことができます。

しかし、人は年齢を重ねるごとに動脈が老化し硬くなっていきます。いわゆる動脈硬化です。ちょうどしなやかな新しいゴム管が劣化して硬いゴム管にでもなったようなイメージでしょうか。

高い圧力がかかるとそれに対応できず、傷んだ血管が破れてしまう時があります。

頭の中の血管で破裂が起こると脳出血となります。脳出血が起こると意識がなくなったり、手足が麻痺したりします。お風呂で意識が無くなると溺れて命に関わる時も出てきます。

実際にお風呂で亡くなった人の原因を調べると、脳出血も含めた脳血管疾患が高い割合を占めています。私たちが以前行った調査でも、お風呂で意識がなくなるといった事故が多いという事実も分かっています。

対策は「温度差」を減らすこと

しかし、脱衣室を温めることや、お湯を熱くしすぎないといった点を注意すれば、冬でもお風呂は決して危険なものではありません。

脱衣室はあらかじめ暖房をつけておくなどして、リビングとの温度差を少しでも減らすような工夫をしましょう。

また、浴室そのものも、とても寒い時があります。ふたを開けて湯船にお湯を張り、入浴前にシャワーのかけ流しで湯気を立てて浴室を温めましょう。

お湯自体も冬こそ40℃までとして、熱くしすぎないことです。湯船に入る前には十分にかけ湯をして、体を慣らしてからゆっくりと湯船に入るようにします。

脱衣室の暖房ぬるいお湯、この2点の安全な入浴法を守り、冬こそお風呂の健康増進効果を享受しましょう。

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