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魅力的な都市を五感で考える調査が登場

都市の魅力という、これまで曖昧模糊としていた要素を始めて指標化した調査が発表された。その調査を通じて分かった魅力的な都市の条件を見ていこう。

中川 寛子

執筆者:中川 寛子

住みやすい街選び(首都圏)ガイド

商品開発の場面では一般的な
官能調査を街に当てはめて魅力を探る

都市

街のランキングには各種あるが、魅力について取り上げたものはない(クリックで拡大)

住みたい街ランキング、住んで良かった街ランキング、住みよさランキングなどなど、世の中には街に関するランキングは多数ある。だが、住みたい街は実際に住めるかどうかを無視した、ある意味人気投票であり、住んで良かった街はそれよりはリアリティはあるものの、家族構成、ライフスタイルが違えば異なる結果もありうる。多様なデータを積み重ねて作られた住みよさランキングはハードの情報のみが積み上げられるせいか、結果を見てもそこに住みたいと思わせるものはない。

 

商店街

商店街も街の魅力。実用性で見てだけでなく、ぶらぶらしているだけでも楽しいという要素も(クリックで拡大)

もっと、何か、他に街の魅力を表す指標はないものか。街を紹介しながら、私自身、長らく思っていた。たとえば、路地のある、ついつい歩いてみたくなる街の魅力、活気ある商店街のある街の良さ、夕暮れに赤い灯の揺れる横丁の魅惑、そんなものが街の魅力のひとつであることを、酔っぱらいの戯言などではなく、客観的に表すものがないか。

 

調査指標

全32項目。どれも非常にユニークである。当初は銭湯も候補に入れていたそうだが、プレ調査で利用者が少ないことが分かり、入れなかったのだとか(クリックで拡大)

それらの経験を調査することで明らかにした調査が発表された。HOME'S総研による「Sensuous City 官能都市 -身体で経験する都市:センシュアス・シティ・ランキング」である。これは都市での暮らしを五感でどのように捉えているかを調査することで、魅力的な都市の姿を描こうとしたもの。人口の集中する都市での暮らしから、他者との関係性について、また、五感で感じる部分を知るために身体性についてそれぞれ4つの大きな項目、各項目下にさらに4つの項目を設け、合計32項目を調査。魅力的な経験、体験のある街をランキングしている。

 
官能という単語に違和感を覚える向きもあろうが、不動産の世界は別として、その他の商品開発の現場では官能調査は一般的に行われるものである。分かりやすいのは、テレビなどでもしばしば紹介される、食品の新商品開発の場面だろう。何人もの人が食べてみて、味付け、材料を調整し、多くの人がおいしいものを思うものを開発していくわけだが、その際に指標になるのは、個人の味覚である。主観的に思われる味覚を多数集めることで商品をブラッシュアップしていく。それが官能調査である。街のように様々な人が、多様な経験をする場でそれができれば、多くの人がどんな街を魅力に思っているかが見えてくるわけである。

トップは東京都文京区、
それ以外にも首都圏、大阪市の街がランクイン

寺社がある意味

寺社の存在は歴史を意味する。また、祭礼があれば街としての一体感も生まれる(クリックで拡大)

まずは結果を見ていこう。トップ50が公開されており、本当は低い街も知りたいところだが、そちらは公表されていない。ただ、記者発表時には郊外の、住むためだけに開発されたエリアを多く含む自治体の評価が低いという話が出ていた。経済効率優先で開発された街、歴史のない街と言い換えても良いかもしれない。調査を行ったHOME’S総研のホームページではすべての自治体の調査結果が公開されているので、気になる人は自分が住んでいる自治体の評価を調べてみると良いと思う。

上位50

上位50自治体。人気の街も含まれているが、それだけではない部分がこの調査の独自性(クリックで拡大)

トップは東京都文京区で、ここは2位以下に大きく差をつけており、ダントツ。評価が高かったのは「共同体に帰属している」「匿名性がある」「ロマンスがある」「機会がある」「歩ける」などの項目である。ここで「共同体に帰属している」は「お寺や神社にお参りをした」「地域のボランティアやチャリティに参加した」「馴染みの飲み屋で店主や常連と盛り上がった」「買い物途中で店の人や他の客と会話を楽しんだ」など、比較的緩い繋がりを意味する。「機会がある」は「刺激的で面白い人たちが集まるイベント、パーティーに参加した」「ためになるイベントやセミナー、演劇、美術館などのイベントで興奮・感動した」「友人・知人のネットワークで仕事を紹介された」など。寺社、昔ながらの商店街、飲食店や各種施設が多い文京区にはこうしたチャンスが多いということだろう。

 
以下、50位までを見てみると、圧倒的に東京都、大阪府が多いことが分かる。文京区を始め、東京23区では13区が、都下では6市が入っており、大阪市では24区(調査対象エリアは21)のうち、8区が、横浜市では18区のうち、5区が入っている。これらの都市には人口だけでなく、様々な魅力が集積していると言える。

名古屋

車での移動は効率的だが、街を味わうヒマはない。静岡県浜松市もこの類型に入るそうだ(クリックで拡大)

一方で大都市圏では名古屋市が入っていない。名古屋市だけではなく、他のランキングでは上位に来ることもある札幌市も同様だ。これは自動車利用が中心の街だからなのだとか。自動車での移動はスピードが速すぎ、街の魅力に気づくヒマがないのだろう。街を味わうためには歩いてみることが大事だ。

 
金沢の味覚

その土地ならではの味覚があるはずなのにランクインしていない街も多く、自分の街の魅力に気付いていない人も多いように思えた(クリックで拡大)

ちなみに地方都市で見ると8位の金沢市を筆頭に首都圏以外の18都市が入っているが、そのうちの20位までを見ると「食文化が豊か」「機会がある」「自然を感じる」などの評価が高い。大都市圏と違い、自然の恵みが魅力に繋がっているというわけだ。また、人口が少ないほうが、人と知り合うチャンス、繋がるチャンスも多いのかもしれない。

 

下町エリア

魅力と価格のバランスで考えると、コストパフォーマンスが良い下町エリア(クリックで拡大)

首都圏で見ると、トップの文京区もそうだが、6位の台東区、16位の荒川区、25位の葛飾区、28位の江戸川区など、他のランキングではあまり上位に出てこない下町エリアが目立つ。こうした街は一般的な人気ランキングで出てこない分、賃料、住宅価格は安めだが、実際には魅力のある街と言えるわけで、住むことを楽しむという観点からすると狙い目な街ともいえよう。

 

センシュアス度の高い街は多様性のある街。
様々なものが混在している

横丁

横丁のある街が好きというと、おやじ趣味と言われそうだが、これもれっきとした街の魅力のひとつ(クリックで拡大)

自治体ごとのランキング以上に興味深いのはセンシュアス度の高い都市には何があるか、どんな街かという項目である。まず、どんな場所があるかについては一言で多様性のある街という言い方ができる。センシュアスな街には普通に「大手チェーンの居酒屋」や「ファミリーレストラン」もあるものの、他の街に比べ、「小さな居酒屋や酒場の集まった横丁」「個人経営のこだわりのカフェ・喫茶店」などがある。

 

センシュアス度の高い街にあるもの

街にどのような場所があるか。センシュアス度の高い街に多いものは青い色でマーキングされている(クリックで拡大)

それ以外に、センシュアス度の高い街に多いものとして「センスの良い花屋」「活気のある商店街」などがあり、「レベルの高い教育を受けられる学校」「高度な医療を受けられる総合病院」も揃う。もちろん、都心であれば「現代的な高層ビルや高層マンション」「「有名アーティストや劇団も登場するコンサートホール」もあるが、一方で「お寺や神社、教会」もある。つまり、新旧が同時にあり、大資本も個人資本もある。それが魅力のある都市の姿なのだ。

 
街の状態

センシュアス度の高い街の状況。必ずしも、安全でキレイで新しいものだけがあるわけではない(クリックで拡大)

続いてどんな街か、状態を問うた設問に対する答えとしては「住宅、オフィス、商店、飲食店が狭いエリアに混在している」「入り組んだ路地が多い」「古い建物と新しい建物が混在している」「街の歴史を感じさせる風景・街並みが残っている」など、明らかに再開発が目指す街とは異なる街の姿が描き出されている。再開発は安心、安全を目標に、街を均質化する作業だが、あまりに均質化されてしまうと、街の魅力は消えてしまう。それを防ぐためには再開発では、もっと街の歴史を尊重した計画が必要なのではないだろうか。

 
夜のイベント

そもそも都市は夜が遅い。夜間のイベントなども豊富に行われている(クリックで拡大)

また、こうした街は「クルマがなくても不便はない」など必要な要素がコンパクトにまとまっており、「自転車での移動が快適」だったりもする。「夜間に女性がひとり歩きしても不安はない」、「街に愛着を持っている人が多い」も多い。利便性が高いのは当然として、安全、安心で気持ちよく住める、そんな街なのである。

 

多様性のある街

新しいモノだけ、古いモノだけでなく、その双方がバランスよく入り混じった多様性の高い街を探したい(クリックで拡大)

最後に、この調査を踏まえ、これから住まいを選ぶ人はどこに気を付ければ良いかとまとめておこう。ここまで読んでいただければ当然だと思うが、大事なことは多様性である。街にいろいろな要素があり、様々な年代、家族構成の人たちが住んでいることである。こうした街はそこでの暮らしを楽しくしてくれるし、もし、長く住むつもりであれば、そうした街のほうが命が長い。これは例えば、同じ年代しか住んでいないマンションの行く末と置き換えて考えれば分かりやすいだろう。多様性は将来性でもあるのである。

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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