祖父には名スプリンター、「血と距離の戦い」に挑む馬とは
一冠目の皐月賞では、ドゥラメンテ、リアルスティールに次ぐ3着。9月の前哨戦となるG2朝日杯セントライト記念(芝2200m/中山競馬場)では、得意の先行策から抜け出して快勝。その勢いのままに菊花賞へと挑むのが、キタサンブラックという馬です。朝日杯セントライト記念のレース映像(キタサンブラックはオレンジ帽の13番)
14着と大敗した日本ダービー以外は崩れておらず、この馬も3歳世代では実力派の一頭。しかし、こちらも3000mには大きな不安がつきまといます。その理由は「血統」にあります。
競走馬の適性や能力を決める上で、重要な要素となるのが血統。その馬の父、母、さらにその前の先祖が、能力形成に大きな影響を与えるのです。
キタサンブラックの菊花賞を考える上で、問題となるのは母方の血統。同馬にとって「母方の祖父」にあたるサクラバクシンオーという馬です。
サクラバクシンオーは、1990年代前半にG1を2勝した名馬。しかし、この馬が強かったのは、競馬において「スプリント」とされる1200m戦なのです。3000mはおろか、1400mまでしか勝ったことはありませんでした。
サクラバクシンオーは父としても名馬を輩出しましたが、それらもほとんどは短距離馬。となると、サクラバクシンオーの血を継ぐキタサンブラックは、3000mの距離がどうしても不安材料になるのです。
しかし、そう一筋縄ではいかないのが血統の世界。短距離馬の血を引きながら、未知の長距離を克服した馬もいます。また、いくら3000mが適正外の距離でも、能力や展開、レースの運び方でカバーできる可能性はあります。そういう意味で、血と距離の戦いに挑むキタサンブラックにも注目です。
メジロの歴史が詰まった一頭、「長距離王国」の血が騒ぐか
「血統」という観点では、今回もう一頭見逃せない馬がいます。それがマッサビエル。この馬の血統表、特に母方の血統を見ていると、こんな名前が並びます。母メジロルルド、祖母メジロドーベル、曽祖母メジロビューティー、曽祖父メジロライアン。さらにその先祖も、メジロナガサキ、メジロチェイサー、メジロボサツ、メジロサンマン……血統表が「メジロ」という言葉で埋まっているのです。
かつて、多数の名馬を輩出した「メジロ牧場」。その牧場の生産馬や、関係者の持った競走馬には、「メジロ◯◯」と名付けられました。そしてこのメジロ牧場は、3000mを超える長距離に強い馬を作ることを命題とし、それを実践。数々の名ランナーを生み出して、「長距離のメジロ」と呼ばれたのです。
たとえば、メジロの名がついたメジロアサマ、メジロティターン、メジロマックイーンという三頭は、父子三代の関係。そしてこの3頭は、みな天皇賞というG1を制するのですが、その距離は3200m。「長距離のメジロ」を象徴する快挙を達成したのです。
しかし、一時代を築いたメジロ牧場も、今はもうありません。スピード化する現代競馬の中で徐々に成績が厳しくなると、2011年に牧場を解散。それ以来、メジロと名の付く馬はいなくなったのです。
ただ、メジロ牧場が繋いできた血統は息づいています。マッサビエルは、メジロ牧場が解散した後、その土地で再出発として作られたレイクヴィラファームの生産馬。レイクヴィラファームでは、メジロ牧場にいた馬たちの多くを所有しており、マッサビエルの母メジロルルドもその中の一頭。そんな経緯があり、今年の菊花賞には“メジロ血統”が帰ってきたのです。
マッサビエルは春の二冠に出ておらず、前走のG2神戸新聞杯でも13着と大敗しています。このレースを勝つのは簡単ではないでしょう。また、いくらメジロ牧場の血統とはいえ、それだけで「3000mが得意」という確証はありません。それでも、3000mの長距離G1にこの血統があるだけで感慨深いのです。初めての3000mに各馬が苦しむ中、「長距離のメジロ」といわれた血の底力が見られるかもしれません。
3歳馬にとって“未知の戦い”となる菊花賞。秋の古都を舞台にした一戦を、是非ともご覧いただければと思います。スタートは、10月25日(日)の15時40分。フジテレビ系での生中継もあります!
(リンク)
菊花賞|出走馬-netkeiba.com
メジロマックイーン-JRA
サクラバクシンオー-JRA Video Interactive