他の動物より未熟な段階で生まれる利点
赤ちゃんがすぐに立てないのは理由があるのです
ただし、性的な成熟が早すぎると、早い時期に学習する意欲が低下してしまい、大人になるとすぐに生殖活動に励み、本能のままに子どもを産んで育てるようになるというデメリットも指摘されています。人間のように成長が遅く、性的成熟が遅れることは、親や周囲にとって手がかかることになるものの、脳にとっては良い影響が多いのです。
大脳の新皮質前頭葉の発達には、子どもの期間、すなわち学習の期間が長いほどいいとされています。人間は、生まれた時の安全より知能の発達を優先した結果、他の動物と比べ未熟な段階で生まれるようになったとも言われています。
子どものまま成長するという「ネオテニー」説
ウーパールーパーは子どもの姿のまま大人?
ウーパールーパーは、正式名称をメキシコサンショウウオといい、メキシコの湖にすむサンショウウオの仲間です。サンショウウオはカエルなどと同じ両生類に属し、通常は幼生期にオタマジャクシのようにエラ呼吸を行い、成熟するとエラがなくなりカエルのように肺呼吸をします。
しかし、ウーパールーパーはエラを持ったまま成熟し、卵を産むのです。オタマジャクシが、そのままの状態で成長して卵を産むようなものです。ウーパールーパーは、サンショウウオのネオテニーとされています。
そして、実は人間もある動物のネオテニーとされています。では、どのような動物のネオテニーなのでしょう?
人間はサルのネオテニー!?
チンパンジーも子どものときは人間に似ています
人間は、サルが幼児のまま大人になり、子どもの期間を長くすることで、知能を優先的に進化させた動物であるという説があるのです。
ネオテニーであることは、幼児期の状態が長く続くことですから、自然淘汰の観点から見れば不都合ですが、学んで習熟する時間を長くとることで知能を発達させ、それにより人類が繁栄していったという説には興味深いものがあります。
「三歳児までの教育」が重要視されている理由
学んで習熟する“期間”と同様に、脳が急激に発達する“時期”も重要です。脳の細胞は生まれた時にすでに完成していますが、脳の配線、脳と脳を結ぶネットワークが完成していくのは生まれた後です。脳のネットワークがもっとも急速に構築される時期、それが生後三年間なのです。三歳児までに周囲の情報を急速に取り入れて、基本的な性格が形成されていきます。つまり、三歳までの子どもを取り巻く生活環境、とくにお母さんの役割がその後の人間形成に大きな影響を与えると考えられています。
■参考文献
・ヒトはいかにしてうまれたか 講談社学術文庫 2015年発行