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「水曜どうでしょう」嬉野雅道ディレクターかく語りき(3ページ目)

レギュラー放送終了後もその人気の衰えを感じさせない奇跡のローカル番組「水曜どうでしょう」。そのカメラ担当ディレクターとして長年番組を支えてきた嬉野雅道さんの初エッセイ「ひらあやまり」出版を記念して、ロングインタビューを敢行しました。「どうでしょう」ファンはもちろん、バラエティーファン必見の内容となりました。

広川 峯啓

執筆者:広川 峯啓

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現場で追い込まれてアイデアが生まれる

「どうでしょう」の秀逸な企画の数々はいかにして生まれたのか?

「どうでしょう」の秀逸な企画の数々はいかにして生まれたのか?

――これまでに実現した奇想天外な企画は、どういった中で生まれて、実現に向けて進められてきたんでしょうか。
嬉野 「企画書を作成して会社の会議に掛けて通す」といった段取りは、やったことがないですね。もしそういう審査を、ぼくら以外の第三者に対してやらなければならなかったら絶対通るはずのないような企画ばかりですからね(笑)。

――確かに今までのセオリーに無かった企画がほとんどだと思います。
嬉野 そんなことが実現できたのも、当初、会社が我々の番組にほとんど興味を持っていなかったという状況がありますね。「水曜どうでしょう」がスタートする前に、「モザイクな夜」っていう深夜の帯番組が放送されていたんですが、その番組が終わって、その番組のエースディレクターが将来を嘱望されてキー局に研修に出されたんですね。その人が半年後に帰ってくるんで、その人が帰ってくるまでの半年のブランクを繋ぐために番組が一本立ち上げられた。それが「水曜どうでしょう」で、その番組に私と藤やん(藤村氏)という、当時生中継とかもよくできないような、局としてはいちばん使い道のなかったディレクター2人が担当させられたんですね(笑)。

――番組開始当時の映像を見ても、とても「使い道のない人」が作ったものには見えませんが。
嬉野 でも実際、半年で終わる予定だったんだと思います。だけどその半年が終わらないうちに人気が出ちゃったんです。だから終わる必要がなくなって、それで、いまだに続いているっていう(笑)。でもね、そうやってその半年の間、ぼくらが好きなように番組をハンドリングしてるうちに人気が出ちゃったもんだから、その辺りのノウハウはぼくら主導なので、いまさら会社はもう介入できなかったんですね。ですから、以来、いまに至るもやりたい放題で(笑)。

――ではスタッフ全員が会議室に入って企画会議というのは……。
嬉野 会議はしないです。ミスターが思いついてくれた企画を喫茶店に入って大泉くん以外の三人で検討して決める程度です。だって北海道から九州までディレクターと出演者が甘いものの早食いをしながら旅をするだけの企画(「対決列島」)なんてものが会社の企画会議に掛けられたら「この企画のどこが面白いんだ」って言われて不採用ですよ(笑)。四国八十八ヶ所を車で回るだけの企画だってそうでしょう(笑)。それのいったいなにが面白いんだって言われますよ。そのくらい水曜どうでしょうって説明不可能な企画ばかりじゃないですか(笑)。

それに水曜どうでしょうの場合、その企画が面白くなってしまう決定的な要素は企画の段階というよりロケの現場でたくさん発見され足されていくわけですよね。あの「対決列島」の面白さなんて、必死で早食いの対決をする二人が可笑しいのはもちろんなんだけど、でも、その二人の必死さや可笑しみがあれほど面白おかしく伝わってくるのは、あの大泉洋の実況があってこそですよね。大泉くんのあの実況がもしなかったら「対決列島」はあそこまで面白く盛り上がりはしなかったはずですよね。でも、大泉くんが早食いする二人のそばで実況しつつ対決を進行させるという具体的なアイデアは、当初、藤村くんの頭にはなくて(笑)、藤村くんの頭の中は自分とミスターが早食いをしながら鹿児島まで旅をするんだということだけでもういっぱいいっぱいで(笑)。

結局、大泉くんは、なんのディレクションも与えられないままロケに連れ出され、その場で初めて企画の中身を聞かされながら「え?ミスターと藤村くんが対決して鹿児島まで行くあいだ、じゃあオレはなにをすればいいのよ」と、手持ち無沙汰になったあげく、結果的に大泉洋自身が、早食いを脇で実況するという役割に自分で到達していったというね、そこには、与えられ指示された役割をこなすのではない、自発的に発見し到達した役割だったからこそ本人が夢中になるという状況があって、だからこそ、あそこまで魅力的な実況をぼくらは聞くことができたのかもしれない。なんかそんなふうにも思えるんですよね(笑)。

つまり大泉洋は「自分はなにをすればいいのだ」という指示を待つ、待ちの姿勢ではなく、この状況がおもしろくなるために、いま足りないものはなんだと考えてそれを自分で発見して足していくという習性を水曜どうでしょうで獲得したんでしょうね。つまりそれくらい水曜どうでしょうという番組は常に穴がいっぱいあったってことなんでしょうね(笑)。だからその穴に気づいた者から順番にその穴を埋めに入るといった、そういうことを全員が当たり前にしてきたチームだったのかもしれないですよね(笑)。

――まさに現場で追い込まれたことで生まれたんですね!
嬉野 あの番組は、企画のたびに、各自が自分の生きる場所を自分で発見して、全体でおもしろくしていくんだということを銘々が自発的にやってきた番組なんでしょうね(笑)。大陸横断とか縦断とかね、決められていることはそういう大筋だけで、あとは現場の流れの中で銘々が何かを発見してそれぞれに面白いものにたどり着いていくってケースが続いたんでしょうね。ということは、最初から全部指示されていて、当初の計画どおりに配置された役割を指示どおりに出演者がこなすだけだと、ひょっとするとあそこまで面白くなってしまうことは、無かったのかもしれないってぼくらはどこかで思っている節がありますよね。

――お話を聞いて、なんで最近のテレビが面白くないと言われるのかわかったような気がします。
嬉野 でも、そんなスタンスが取れる底には、「もし、面白くならなかったら、そのときはそこは全部カットすればいいや」とか「ロケしなおせばいいや」とかっていうね(笑)、ローカルだったからこその、そして4人とも水曜どうでしょう以外に可能性なんかなかったからこその、大らかさがあったからでしょうね。みんな時間ありましたからね(笑)それに、面白くならなかったものを編集や仕上げで面白くしようとするのは、どうしたって無理ですから。
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インタビュー取材を終えて

「水曜どうでしょう」で見切れている嬉野氏しか知らないファンには、意外なインタビューだったかもしれません。こちらの質問に対して、思うところをユーモアを交えつつも誠実に答えていただき、最後まで優しい笑顔を絶やさない方でした。

今回のインタビューを読んで、これまで以上に嬉野雅道ディレクターに興味を持った方には、ぜひとも「ひらあやまり」を読まれることをお勧めします。嬉野ワールド全開の一冊を堪能してください。
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