住まいに緑が取り入れられてきた理由とは
まず、緑を住まいに取り入れる効果について整理しておきましょう。我が国だけではなく、世界各地で住まいなどに緑を取り入れることはよく行われてきました。例えば、我が国の古い寺社仏閣はもちろん、少し裕福な民家では立派なお庭を作っていました。そのお庭は観賞するだけでなく、夏には涼やかさをもたらすという視覚的な効果をもたらしました。もちろん、お庭があることで周囲の温度が下がり、住宅内部に気持ちの良い風をもたらしてくれるという効果もあります。
そういえば、京都などの旧家、町屋と呼ばれる住宅には坪庭が配置されています。坪庭は決して大きなスペースではありませんが、これがあることで居住空間の中に光を取り込んだり、風を行き渡らせるという効果があるとされています。
このように私たちのご先祖様は、季節の移り変わりを感じられるということも含めて、住まいに緑をうまく取り入れ、そして楽しんできました。そして、このようなニーズは現代も変わらず存在します。ですから、ガーデニングを含めて様々なかたちで研究や開発が行われ、発展を遂げています。
かつての日本人の住まい方を生かし、現代的にアレンジしているのが「パッシブ設計」と呼ばれるものです。これは緑の種類や植え方を考慮して、居住空間の環境をより良くするという方法です。これは建物そのものの気密・断熱性を高めたり、日照通風をよくするだけにとどまりません。
例えば、リビングの前に常緑樹を植えておけば夏には直射日光が入ってくるのを妨げてくれますし、逆に冬には葉が落ちて日の光を室内に導き入れてくれます。このような建物と周辺環境の全体で住まいの快適性を考えようという設計なのです。
また、住宅の周囲が緑化されていることで、夏には葉の蒸散効果により、周囲より涼しい環境とすることができます。もちろん見た目の涼やかさがあることはもちろん、ヒートアイランド現象の抑止効果も期待されるといわれています。
緑化の方法が進化し、バリエーションも種類豊富に
難しい話はさておき、このような緑の活用により、少しでも照明やエアコンなどによるエネルギー消費を少なくし、省エネに役立てようということなのです。建物そのものの省エネ化に熱心な住宅事業者は多いですが、ここまで徹底している事業者は少ないものです。積水ハウスの「エコ・ファースト パーク」(茨城県古河市)にあるビオトープ「生きものの庭」の様子。同社が積極的に進める緑化・生態保全活動「五本の樹」計画の取り組みを再現したものだ(クリックすると拡大します)
さて、近年ではお庭のような住宅の外部だけでなく、建物そのもの緑化も行われるようになってきました。例えば、屋上利用やベランダ、壁面などの場所で、敷地の面積が狭くお庭のスペースを確保しにくい都市型住宅で積極的に取り入れられています。
これらは住宅の躯体強度が以前に比べて高まったこと、さらに土の軽量化、植える樹木の種類の選定ノウハウなどが高まってきたことも要因だと考えられます。土で思い出しましたが、これもずいぶん進化しているのです。
というのも、かつては屋上緑化をしてみたものの、強風や雨などで土が飛んだり流されてしまって、せっかくの緑化が台無しになってしまうということもありました。近年はこれらの問題を解消した土が開発されており、だからこそ緑化提案のバリエーションが増えたのです。
次のページでは、住まいに緑を取り入れた事例を写真で具体的にみていきます。