「ペット同行避難」が抱える問題点-各自治体における温度差
今回の災害でもペット同行で避難した人たちがいらっしゃるわけですが、予想されたほど多くはなかったということです。単純に被害のあった地域的範囲(広さ)も関係あるでしょう。それとは別に、1つには、政府レベルで「ペット同行避難」対策が進められているということを充分には知らなかったという人も少なからずいたと思われます。これまで大きな災害がいくつかありましたが、特に東日本大震災では多方面で大きな課題を残し、ペット及び動物の問題もその1つでした。この経験から、“都道府県が策定する動物愛護管理推進計画に災害時の対応についても記載すること”と「動物の愛護及び管理に関する法律」に追加された他、環境省によって「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」も作成されました。
それから約2年。昨年4月時点での各自治体における地域防災計画や災害対策を見比べてみると、ペット及び動物についてほんの箇条書き程度になっている自治体もあれば、オーナーが持参すべき物まである程度文章量を費やして記載している自治体もあります。避難所でのペット受け入れに関しては、「原則、ペットは屋外。専用のスペースを設ける」というところが多い中、「ペットは基本的には屋外となるが、余裕がある場合は屋内も可」「ペットの受け入れに関しては各避難所の運営委員の判断による」という自治体もあります。
これだけでも自治体や地域によって温度差があることも感じ取れますし、ガイドラインが発表されてからまだそれほど時間が経っていないことから足並みが揃わないという部分もあるのでしょう。元々ガイドラインは“こうしなければならない”というものではなく、それを基軸として各自治体がより望ましい災害対策を立てることを政府が“期待する”という内容ですから、自治体の状況や環境などによって差が出るのは仕方がないとも言えます。よって、各自治体の取り組みによっては、ペット同行避難が一般市民の隅々にまで行き届いているか?というと、現段階では疑問を感じざるを得ない部分もあるのは否めません。
⇒同行避難が推奨されていることを知らなければ置き去りにされるペットが多くなる。また、受け入れ態勢が整っていなければ、ペット飼育者はどこに避難していいのかわからない、避難場所の選択肢が狭くなる。
「ペット同行避難」が抱える問題点-犬に対する想いの温度差
確かに犬(ペット)を家族の一員、大切な人生のパートナーと捉える人たちは増えてはいますが、中には犬を飼育しながらも自分の犬に対する想いが薄い人たちも現実的にはいます。そして、犬は家族と言うより番犬としての意味が強いと考える人もいるでしょう。今回の災害でも無人となった家の防犯を懸念する人たちもおり、実際盗難に関する報道もありました。そうなると、家を守るために敢えて番犬として犬を残してきたという人もいるかもしれません。残された犬としては尋常ではない状況の中、不安でそれどころではないだろうとは思いますが。⇒長期になれば置き去りにされたペットの死の危険性も増す。また、放浪する状況となれば、それを保護・確保するための人員やボランティアが更に必要になる。病気感染や野犬化した場合の問題も出る。
「ペット同行避難」が抱える問題点-動物好きとそうでない人との温度差
愛犬はとても大切な存在だと考える人(動物好き)と、そうでない人とでは視点も感じ方も違ってきます。いくら私たちが「災害時にはペットも一緒に避難を!」「それがしいてはオーナーさんを守ることにも繋がる」「取り残されて放浪するペットが増えることを考えれば最も合理的である」と声を大にして叫んでみても、動物が苦手な人、動物ごときと考える人たちからすれば理解し難い部分もあるのかもしれません。現実的には、避難所でペットが受け入れられないのであれば避難はしないという人もいますし、他の避難者たちの迷惑になるだろうと敢えてペットを自宅に残して避難する人もいます。ペット飼育者にとっては1つの壁が存在し得ることは確かです。⇒本来であれば避難できるはずの命も、みすみす見殺しにしてしまう可能性も出てくる。ペットを心配するあまり、オーナーの肉体的精神的不調が懸念される。
私たちにできること-オーナーとしての努力
これらの隙間を埋める、繋ぐ、または住み分けるといった努力を重ねることは必要でしょう。自分が住む地域ではペット同行避難についてどのような対策がなされているのか自治体に確認してみるという行為によって、一般市民として大事な問題であるのだということをアピールすることもできるでしょうし、散歩友達や近所の人と災害の話になった時にはペット同行避難について話をしてみることで、その情報を持たなかった人にとっては有益な情報となることでしょう。また、愛犬に最低限のしつけをし、マナーを守ることで、動物が苦手な人たちが抱くペットやペット飼育者に対するイメージを和らげることも不可能ではありません。どれもが小さく地道な努力ですが、理想とされるペット同行避難を実現するには、私たち一人一人のそうした努力が必要なのではないでしょうか。次のページへ。