神奈川県内の地場のコンクリート会社が出荷したレディーミクストコンクリートに不適切な材料が使われていたとして、各地で工事が中断されたり、マンションの販売が見合わせられたりする「事件」があったのは2008年のことです。
国土交通省が「建築基準法違反」として公表したのは横浜市、藤沢市、鎌倉市、茅ヶ崎市、大和市、綾瀬市の70物件にのぼり、その内訳はマンション23棟、一戸建て住宅22戸、学校など教育施設3棟、病院2棟、ファミレスなど店舗4棟、事務所4棟、工場5棟、介護老人保健施設1棟、高齢者福祉施設1棟、その他5棟となっています。
マンションや一戸建て住宅では、新規の販売が中断されただけでなく、すでに引き渡し済みの住戸も少なくありませんでした。
建築基準法による規定では、柱や梁などの構造上の重要な部分に用いるコンクリートはJIS規格に適合するものか、国土交通大臣の認定を受けたものでなければならないとされています。
それに対して一連の物件では、JIS規格に適合しない溶融スラグ骨材を用いたレディーミクストコンクリートを「JIS製品」として納入したため、建築基準法違反だと判断されたのです。
これに該当する物件のいくつかでは、違法な溶融スラグ混入によってポップアウト現象(ポップコーンがはじけたように、コンクリートの表面が外側に飛び出す現象)が生じているとの報道もありました。
その一方で、国土交通省が設置した対策検討委員会は「ポップアウト現象が生じても、構造耐力上で安全性や耐久性に大きな支障を及ぼす可能性は少なく、適切な改修や経過観察をすれば継続使用が十分可能」とし、将来の安全性が確認できれば個別に大臣認定をして “適法化” を図る方針が示されたのです。
それが明らかにされた後も、「建築基準法違反」とする物件の追加公表をしていましたが……。
もちろん、工事を中断したままで放置されれば、当事者だけでなく近隣の住民も迷惑を受けかねませんでしたが、すでに住宅の引き渡しを受けている購入者にしてみれば、後から「合法になりました」といわれたところで、到底納得できる問題ではなかったでしょう。
しかし、「その後」の詳細を報じるメディアもないままで時間が過ぎ、すでに人々の記憶からも消えようとしています。一度は建築基準法違反とされた住宅を、後に中古物件として売るときにどうするべきなのかも曖昧なまま、釈然としない気持ちだけが残る「事件」でした。
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(この記事は2008年8月公開の「不動産百考 vol.23」をもとに再構成したものです)
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