人種による「肌の色の違い」、同じ皮膚病でも見え方が異なることも
皮膚の病気は人種によって差異がある?
筆者がアメリカで診療をして驚いたことは、肌の色によって同じ皮膚の病気でも見え方がまったく違うということです。かさかさしてかゆくなる「湿疹」は、アジア人や白人の場合は赤くなるので見てすぐにわかるのですが、黒人の場合はほとんど赤くなりません。もともと黒い皮膚がさらに黒みを増したようにしか見えないのです。
これに限らず、飲み薬が原因で全身に赤いぶつぶつが出る「薬疹」や、全身が赤くなる「紅皮症」でも、同じように黒人では黒みが増したようにしか見えないため、最初は戸惑いました。
アジア人の「湿疹」。炎症を起こし、赤く見える。
黒人の「湿疹」。白人やアジア人の「湿疹」と違い、まったく赤く見えない。
一方で、もっとも多いタイプの皮膚がんである「基底細胞癌」は、日本人の場合は黒く見えるのですが、白人では白く、光沢のあるデキモノにしか見えないことがあります。
筆者が東京で診察していた時、白人の患者さんが鼻のできものが気になるということで受診されました。一見ツルッとした白い小さなできものだったので良性のデキモノにも思えたのですが、「白人だと同じ病気でも見え方が違う」というのを思い出してその部分を切除して調べたところ、基底細胞癌でした。
日本人(アジア人)は白人よりもレーザー治療に注意が必要
ニューヨークでは、白人が半分弱、ヒスパニックと黒人が1/4ずつ、アジア人が10%程度と、多様な人種が一緒に暮らしています。白人の割合が最も多いので「皮膚の病気の治療」とニューヨーク(アメリカ)で言うと、通常では「白人の患者さんをどのように治療するか」ということになります。ただ、特に美容皮膚科の領域(シミ、シワなど)では白人と肌に色のある人種では治療方法がかなり変わってきます。白人以外の治療に特化して診療や研究を行っている皮膚科医も少なくなく、英語では「skin of color」と呼ばれて皮膚科の中のひとつの学問になっているほどです。
白人はレーザーやケミカルピーリングで強力な治療をしても副作用が出にくいのですが、日本人(アジア人)ではそうはいきません。そのため、白人と同じ強い治療を行うのではなく、パワーを落としてレーザーを使用したり、レーザーの種類を変えたりと工夫が必要になります。
シミやシワに対する治療は人種によって少しずつ異なる
白人は皮膚のメラニンが少ない分日光の影響をうけやすいため、30~40代で細かいシワ(rhytidesと呼び、深いシワwrinklesと区別します)が増えます。これに対してはかなりアグレッシブな治療が行われ、皮膚をフェノール(皮膚にヤケドのような反応を起こす)で傷害して新しいきれいな皮膚を再生させる方法、肌の表面を炭酸ガスレーザーで細かく削り新しい皮膚が再生する過程で皮膚を若返らせる方法などがあります。
たしかにこれらによって口の周りや目尻の細かいシワは減り、見た目が若返ります。ただし、これは白人だからこそ可能な方法であって、アジア人であまり強い治療を行うと、逆に茶色~黒い色がついてしまい、思惑とは逆に見た目が悪くなることがあります。これは「炎症後色素沈着」と呼ばれ、皮膚が炎症を起こしたり傷害されるとメラニンが沈着してしまう現象です。白人では起こりにくいですが、アジア人や黒人などもともと肌がメラニンを多く含んでいる場合、問題になります。
また、同じ人種の中でも肌の色が濃い人、薄い人がいます。さらに、季節によっても肌の色は変わり、夏には日差しの影響で色が黒くなりがちです。この微妙な差でもレーザーやフォト治療(IPL, intense pulsed light)で使う出力が変わってきます。一般的に、肌の色が濃いほど出力を落とさないといけません。同じ出力でも肌の色が濃いと反応が強くなり、時にはヤケドのような反応を起こしてしまうからです。
レーザーやフォト治療は人種を問わずシミ、シワに有効な治療法ですが、アジア人の場合にはあらかじめ皮膚全体をぬり薬で治療してからレーザーを使う、など欧米よりもより慎重な治療が求められます。
人種による肌の色で変わる、かかりやすい皮膚の病気……皮膚がん・酒さなど
皮膚がんはアメリカでは大きな問題になっています。悪性黒色腫(メラノーマ)というのがホクロのように見える最もやっかいなタイプの皮膚がんで、アメリカでは2015年には14万人弱の新しい患者が出るとされていて、50人に1人は一生に1回メラノーマになるという計算です。「悪性黒色腫(メラノーマ)」は圧倒的に白人に多い
アメリカでは「スキンチェック」が健康診断に組み込まれています。年に一度、全身くまなくホクロや皮膚のできものを皮膚科医がチェックします。日本ではまず見られない光景です。筆者の勤めるロックフェラー大学でも年に一度無料で受けられることになっているので、先日行ってきました。ひとつひとつ丁寧に調べてくれるのかな、と思っていたのですが、ざっと見て「背中に2つ大きめのホクロがありますがまず問題ないでしょう」と言われてあっさり終わりました。5分もかからなかったでしょう。白人で高齢の方だとデキモノも多いですので、その場合は丁寧に時間をかけてみてくれるのかもしれません。
ほかにも人種によってなる確率や重症度が変わってくる皮膚の病気は多く、
- アトピー性皮膚炎:アジア人に多く、白人の2倍程度(アジア人で人口の6%ほど、白人は3%ほど)
- 乾癬:白人に多く、アジア人に少ない(白人の2%ほど、アジア人では半分以下)
- ニキビ:黒人でより重症
- ケロイド:黒人で起こりやすく、手術のときに問題に
- 酒さ(赤ら顔になる病気):白人に多い
などがよく知られています。東京で街を歩いているとアトピー皮膚炎の方をよく見かけましたが、なるほどアトピー性皮膚炎があるとパッと見てわかる白人をニューヨークで見かけたことはまだありません。一方で、乾癬はアメリカに来てから日常でも街中でよく気づきます。
筆者はこのアトピー性皮膚炎がどのようにアジア人と白人で違うのか、ということを患者さんの皮膚を基に研究してきました。その結果、アトピー性皮膚炎の患者さんでは皮膚の表面の部分(表皮と呼びます)はアジア人で白人よりも厚くなっており、また原因となる炎症についても、アジア人では異なる反応をしていることがわかりました。これがどのように今後の治療につながっていくかはまだわかりませんが、人種間で治療の選択肢が若干変わってくるという可能性はあると思います。
今回見てきたように、皮膚の病気は特に、見え方も治療も人種によって少しずつ異なります。そのため、それぞれの人種、さらに美容皮膚科の領域では同じ日本人でも肌の色やタイプによりそれぞれに合わせた治療をする必要があるのです。