演出家マシュー・ホワイト
「80年前の極上素材を
現代の観客用にブラッシュアップ」
マシュー・ホワイト ロンドン近郊出身、ケンブリッジ大学で英文学を学びつつ演劇活動を始める。『オペラ座の怪人』『シカゴ』等に出演、『キャンディード』オペラ『魔笛』等の演出を手がける。(C)Marino Matsushima
「有難う。原作映画もとても優雅で僕は好きだけど、舞台化に携わり始めて、この作品は決して“レトロ”ではなく、今の若者にも、ひょっとしたら子どもにもアピールする素材だ、と気づいたんです。夢見るような衣裳、セットはもちろん、脚本のスピードや“笑い”のボリュームを増すことで、21世紀の“今”を生きる誰もが楽しめるショーにしようと心掛けました」
――ヒロインの造型はいかがでしょう?21世紀の女性たちが共感する人物像は意識しましたか?
「デイル役は(80年前の)製作当時は非常に先進的な自立女性で、幸い、設定を変える必要が無かったんです。彼女が辿る感情は非常に普遍的なもので、恋に落ちた時のロマンティックな心情、それがもどかしさに転じたりといった様子は現代の女性もとても共感できるのではないかな。
Photo by Max Lacome-Shaw
――マシューさんは日本でお仕事をされたこともあるそうですね。
「ええ、15年前に東宝が『回転木馬』を上演した際、副演出で長期滞在したんです。もともとは俳優で、ウェストエンドの『レ・ミゼラブル』でマリウスを演じたこともありますよ。今は来年英国で上演の『アダムス・ファミリー』『Baker’s Wife』の演出、メリル・ストリープ主演映画『シー・デビル』ミュージカル版の脚本を準備しているところです。今後も日本とご縁があると嬉しいですね」
振付ビル・ディーマー
「“アステア・ブームに火をつけた立役者”
としての喜びと責任感」
ビル・ディーマー ダンサーとしてデビュー後、ジリアン・リンに勧められ振付家に。『エビータ』『ラブ・ネバー・ダイズ』など多数の英国公演振付を手がける。『TOP HAT』でオリヴィエ賞最優秀振付賞受賞。(C)Marino Matsushima
「僕は振付家としてBBCの「Strictly Come Dancing」というダンス番組に関わっているのだけど、有名人らが社交ダンスをベースにクリエイティブなダンスを披露するという内容が、英国ではとても受けているんです。そんな折にアステア・スタイルがたっぷり堪能できるこの『TOP HAT』が登場し、芸術鑑賞授業で観に来た高校生たちまで“このダンスすごい!”と興奮している。世代を問わずアステア人気に火がついて、僕のもとにも、いろんなスクールから“アステア・ダンスを教えてほしい”というリクエストが舞い込んでいます」
――舞台化にあたり、「映画版の振付をそのまま使っていい」と言われたにも関わらず、あなたは“アステア・スタイルのオリジナル・ダンスを創造すること”に拘ったそうですね。
「アステアという偉大な人物に敬意を払い、彼のスタイルをお見せすることがこのショーの出発点だし、少しでも自己流に崩してしまえば、それはアステア・スタイルとは言えません。けれども、映画の振付というのはカメラ撮影を前提としていて、さまざまな方角から観られる舞台に、そのまま載せても効果的ではないんです。実際、2幕のデュエット『Cheek To Cheek』で製作側から“映画版の振付を一か所使わないか”と言われて取り入れたのですが、仕上がった時に皆が観て“やはりここだけうまくいかないから、直してほしい”と言われたこともありました。
Photo by Max Lacome-Shaw
――英国の演劇界では最近、リヴァイバルやジュークボックス・ミュージカルが多いと言われているようですが、どう実感されていますか?
「最近の英国にはなかなか天才が現れないので、よく仲間内で“ライターはどこにいるんだ?”と話していますね。ミュージカル作家は何曲かいい曲が書ければいいという話ではなくて、それが強力なストーリーラインと直結し、ビジネス・ベースに乗らなくてはいけない。どうもこの国では大学で音楽を極めると、アカデミックな方向に行く傾向があって、非常に優秀な音楽監督や、ダン・ジャクソンとかクリス・ウォーカーのような素晴らしい編曲者が生まれています。僕は振付家として『キャッツ』のジリアン・リンに多くを教えていただいたので、自分が若いころに得たものを次の世代にお返ししたい気持ちがある。自分の創ったものを観て多くの人が笑顔になるという幸福を、若者たちにも味わって欲しいといつも気にかけています」
*公演情報*『TOP HAT』9月30日~10月12日=東急シアターオーブ、10月16~25日=梅田芸術劇場メインホール
*次頁で観劇レポートを掲載しました!*