読めない、覚えらんない名前
ガイド:シェンフーシュバイツという名前、かなり覚えにくいです。しかし、名前には意味があるように思えます。前半が中国語、後半がドイツ語。ちょっとこの辺りについて、もうちょっと教えてください。
ヤサカ:
正式には「先富schweitz」と書きます。元々はこの漢字とアルファベットの組み合わせの字ヅラが面白いなと思ったのと、当時は自分の音のルーツ、中華的旋律とジャーマンテクノのグルーヴの組み合わせをシンプルに等分表現したいなと思って名乗り始めたんですけど、どこ行っても「読めない、覚えらんない」って言われて。まぁ当たり前なんですけど(笑)。「中国の経済的観念とドイツのアルベルトシュバイツァーにおけるウンヌンカンヌン…」って、よくわかんない風呂敷を延々と広げるネタも面白いかなぁと思ったんですけど、だんだん面倒くさくなってきて(笑)。初期の頃から比べると、ライヴや現場が多くなってきて、引きこもりの制作ベース思考から、だいぶリアルタイム思考に変節しちゃったの で、音ももうだいぶ混じっちゃったし、カタカナの「シェンフーシュバイツ」でいいやと。覚えにくいのは変わらないですけど、読めないって事は一個消えたので(笑)。
YMOとKraftwerkとSpace
ガイド:関西という以上にシェンフーシュバイツに、僕が親近感を持った理由を説明させてください。僕はひとつのライフワークみたいな形で、「共産テクノ」というテーマでいろいろ書いています。多くの共産テクノは、ベルリンの壁が崩壊する前のソ連と東欧諸国が中心で、かつ「テクノ」の部分はテクノポップ的なものです。YMOは赤い人民服(実際はスキー服がモチーフ)を着たり、「中国女」「東風」など中国的モチーフを使っていましたが、中華人民共和国となると、80年代だと共産テクノらしくものは見つかっていません。そんな状況で、中国とジャーマンテクノにインスパイアされた日本、しかも大阪のユニットというのがたまりません。何に触発されて、今のようなコンセプトに なったのですか?
あなたの知らない音楽がココにある!奥深き「共産テクノ」の世界 (All Aboutテクノポップ)
ヤサカ:
さっきのカタカナ「シェンフーシュバイツ」とは矛盾しちゃうんですけど、「先富schweitz」をやり始めるまでに色々と音楽を聴いてきたり、作ったりしてきて、自分の中で段々と音やジャンルのフュージョン具合に疑問を感じる様になってきたんですね。音にこなれてきたキャリアになって、混ざり方が段々複雑になってきて、逆に純度が落ちて濁ってきてるなぁと。わざわざ公で表現してる以上、人と共有するには、もう少し純血でクラシカルなテーマに立ち戻って、尚且つ、内部のアレンジの知的な要素や配分に満足するのを着地点にするのはやめて、ガワの部分というか、音の導入部をわかりやすく表現するべきなんじゃないかなと思ったんですね。そうなってくるとかなり幹が太いテーマじゃないと長い年月は歯牙んでいけない訳で(笑)。じゃ、一度物心ついた頃ぐらいに遡らないとアカンかなと。
ガイド:
なるほど。じゃ、自らのルーツを戻ろうとしたわけですね。
ヤサカ:
結局、「自分のルーツって何だ?」ってなった時に、子供の頃に見たYMOのビデオのイメージがあって。多分、子供なのでインベーダーゲームのサウンドイメージからYMOに近寄っただけと思うんですけど(笑)。我々の年代的には、その後にKraftwerkを後追いすることになるんです。YMOやKraftwerkには、サウンド的なキャッチーなものがまずベースにはありますよね。その上で、同じ少年期に熱中したのがジャッキー・チェンの映画です。彼の「蛇拳」という映画の中で、よくわからないアナログシンセのアルペジエーターがルーティンしてたり、主題歌がSpaceの「Magic Fly」だったりして、欧州の個性が重なったアングルが強烈にかっこよく残っていて。そのインパクトが我々の初期コンセプトと言えるかも知れませんね。
ガイド:
最近、Spaceに始まる「スペースディスコ」にも注目したのですが、ジャッキー・チェンの映画にSpaceが使われていたとは知りませんでした。
ダフト・パンクよりずっと前にヘルメットだった奴ら (All Aboutテクノポップ)
ヤサカ:
強引ですが、中国には80年代に共産テクノは無かったかも知れないですけど、その年代に、重なったアングルが共産テクノとの関連性だったりするかも知れないですね。思想体系は抜きにして「共産テクノ」って見たままの熟語はいいですね。