自殺者が過去最少の中、10歳代の自殺は横ばい推移
令和元年、日本国内における自ら命を絶つ人は過去最少となりましたが、依然として2万人を超えている状況です。この中で、10歳代の若者の自殺者数は横ばいで推移しています(厚生労働省「令和元年中における自殺の状況」 2020年)。また日別の自殺者数の分析によると、小学生は11月30日、中学生と高校生は9月1日が最も多く、調査期間における直近10年間では8月下旬が最多との分析を明らかにしました。そして特定の日に限らず、夏休みの後半から明けにかけて広く、児童生徒の自殺防止の取り組みを進めていくことが必要と注意喚起しています(自殺総合対策推進センター「通学適齢期の自殺者数に関する分析」 2018年)
自殺の主な原因としては、身近な人との死別体験などによる喪失感、いじめや家庭問題の苦痛体験、また昨今では自殺企図手段への容易なアクセス、などがあげられています(内閣府作成「平成25年ゲートキーパー研修テキスト3版」参照)
またその手段として、飛び降りや飛び込みといった突発的に行われ得るものが増えています。(厚生労働省「厚生労働省 自殺対策白書」2020年)
10歳代の若者自殺が8月下旬に最多である理由として「一部自治体が夏休みを短縮化した影響も考えられる」との意見もあり、やはり原因に学校問題が大きく関わり「学校が怖い」「学校へ行くのが死ぬほど辛い」からと推察できるでしょう。
学業不振や学校での複雑な人間関係に悩む子どもは、「また学校に行かなければならない」というプレッシャーと不安、苦痛、恐怖から追い詰められ、自ら命を絶つことを選んでしまうと思われます。とりわけ、いじめに対しては大きな社会問題として取り上げられることが多くなってきています。
官民連携で子どもの自殺防止の取り組みが行われる
厚生労働省は、3月を自殺対策強化月間として自殺防止SNS相談事業(チャット・スマホアプリ等を活用した文字による相談事業)を行っており、地方自治体や民間団体による期間中の相談の実施なども行っています。このように官民連携で、長期休み明けの若者の自殺防止に取り組んでいますが、家庭での親の関わり方も非常に大きく影響します。
親は「学校に行かなくてもいいよ」と言う勇気を持ちましょう
若者白書(内閣府)の自殺者の状況によると、原因は学校問題以外に、健康問題、家庭問題も大きな割合いを締め、学校へ行かないことや宿題を済ませていないことへの親からの叱責も子どもを自殺に追い込む要因になっているとも言えるでしょう。学校に行かないことを親に叱責される子どもは居場所がなくなり、最悪の結果を選択すると思われます。「学校へ行かなくてもいいよ」とは言うのは、親にとっても言い辛く、迷いもあるかもしれません。ですが最悪の結果を招く前に、勇気を持って対応してあげましょう。
自ら命を絶つことを選ぶ子どもの心理と親の対応の仕方
私たち大人は、10歳代の子どもの自殺のニュースを聞くと「自殺以外の解決方法を見出せず、衝動的に思いつめて自殺してしまったのだろうか?」と、考え込み重い気持ちになります。自殺時の子どもの心理として、
「もう、どうすることもできない」という絶望感や、
「誰も助けてくれない」と思い込む孤独感、
そして激しい苦痛を感じ、切迫した気持ちになって今すぐ危険行動を起こしかねない気持ちや衝動性にかられ、最悪の選択をするようです。ではそのようなことになる前に親はどのように対応すればよいのでしょうか。
子どもの様子が「おかしい」と感じたら、まずは話を聞く
子どもが最近元気がなかったり、少し思い詰めているような様子の時、最悪の結果を防ぐために親はどのように対応すれば良いのでしょうか?5つの段階を追って説明します。子供が最近元気がなかったり、少し思い詰めているような様子の時、最悪の結果を防ぐために親はどのように対応すれば良いのでしょうか
■ステップ1 温かみを持って傾聴する
まずは、子どもの話をゆっくり聴きましょう。初めは単語程度の言葉しか出てこないかもしれませんが、決して矢継ぎ早に質問してはいけません。子どもの反応を見ながら、時間をかけて向き合いましょう。
話しやすい雰囲気で、あいづちを打ちながら、真剣に聴いている様子が伝わるようにすることが大切です。そして子どもが話す「体験したこと」「感じていること」に対し、正しいとか、良いとか悪いとかの判断をしたり、もっとこうするべき、などの批評はしないことが重要です。
■ステップ2 ねぎらう
話してくれたこと、気持ちを打ち明けてくれたことに、「よく話してくれたね、ありがとう」と感謝の気持ちを伝え、今まで一人で苦痛に耐えてきたことをねぎらいましょう。
■ステップ3 心配していることを伝える
子どもが置かれている状況を理解し、「あなたのことをこんなに心配している」と、心から子どものことを心配していることを伝えましょう。
■ステップ4 一緒に考え、孤立を防ぎ安心感を与える
「これが正解」という解決策は直ぐにはみつかりません。ですが一緒に悩み、「どうすれば良いか」を考えるだけで、孤立感や絶望感を抱いている子どもには、大きな支援になります。
■ステップ5 専門の窓口への相談
状況や場合によっては、医師や法テラス、市政の窓口へ相談に行くことも視野にいれましょう。
子どもの自殺を防ぐため、親が意識して関わるべきこと
次に子どもが最悪の選択をしないように、親は日頃からどのように関わればよいのかお伝えします。「よく話してくれたね、ありがとう」と感謝の気持ちを伝え、今まで一人で苦痛に耐えてきたことをねぎらいましょう
「あなたが生まれてきたのは、多くの人の命を受け継いで生まれてきたのよ」
と、周囲の人の気持ちから「命の尊さ」について気づかせることが重要です。
お父さん、お母さんがいなければ、あなたは生まれてこなかったこと、そのお父さんとお母さんもそれぞれのおじいちゃん、おばあちゃんがいなければ生まれてこなかったこと、
「命」はあなた一人のものではないこと、多くの人の「命」を受け継いで与えられたことを話しましょう。
また「死」を自分からの目線ではなく、自分を取り囲む人々の気持ちから考えることによって、「あなたがいなくなると悲しむ人がいること」などをしっかり伝えておきたいものですね。
■何でも話し合える親子の信頼関係を築いておく
日頃から子どもに関心を持ち、ちょっとした変化にも気づいてあげましょう。子どもの普段からの何気ない会話にも話に耳を傾け、なんでも話せる親子関係を築いておくことが大切です。
スマホやバーチャルのゲームの世界で、簡単に人が死に、リセットすれば簡単に生き返る、そういうことを身近にしている子どもたちは死への理解が浅く、辛いときにとっさに自殺という手段を選んでしまいがちになるのかもしれません。
「命はかけがえのないもの」であることを伝え、自殺が問題の根本解決にならないことや「自殺以外の問題解決方法は必ずあること」をしっかり日頃から話しておきましょう。
親は、最悪の事態が起こってから、どうしようもない悲しみや後悔をする前に「辛いことがあっても、一瞬思いとどまれば、その苦しい体験が後の人生に役立つこと」や、時にはしっかり抱きしめ「大好きよ」と言葉にして伝え、子どもの命をしっかり守りたいものですね。
【参考情報】
- 令和元年中における自殺の状況(厚生労働省)
- 通学適齢期の自殺者数に関する分析(自殺総合対策推進センター)
- ゲートキーパー研修テキスト3版(内閣府作成)
- 自殺対策白書(厚生労働省)
- 自殺対策(厚生労働省)
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