快適な自然環境、都会では手が届かない広い住環境、家庭菜園での自給自足等々、理由は様々ですが想像以上に田舎暮らしに憧れる人が多いようです。
しかし、ちょっと待って。移住は、人生の一大イベントでもあります。単純に「田舎に住みたい!」だけでは、すぐに受入れてはもらえないのが地域コミュニティのオキテ(常識)だと肝に銘じておきましょう。
残念な“オレに任せて!”事件
年に数回行われる班内での一斉草刈り日。普段あまり出会わないご近所との交流のためのイベントでもあります。草刈り労働は小一時間余りで終わり、後は恒例の路上宴会が始まります。缶ビールが出る、一升瓶が出る、手作りのつまみが出る。そして、いつも通り和やかに解散となるはずでしたが……移住者が増えたため車も多くなり、郷内三叉路での交通事故への不安が話題に上がりました。かぶさってる枝葉を払って見通しをよくしたら? 通学時間には大人が順番に立って子供たちを誘導しよう等々と、意見が飛び交います。
引っ越してきて間もないFさんが、遠慮深げに手を挙げました。「あの~、 カーブミラーを設置したらどうでしょう。私の方で役場に電話をかけてもいいですよ!」その役目、私が買って出ましょうという心意気と、自分もコミュニティの一員だという一心での提案です。
「ちょっと待って!そういうことはまずい。まず班長、次に区長、それから役場と順番にやらなくちゃぁ。そのために私の役目があるんだから」
都会はすべて行政まかせ。しかし、田舎はまずは住民の手でという役割分担のオキテを忘れていました。「し、しまった!」Fさんは、ぬるくなった缶ビールを見つめるばかり……
残念な“むし・虫・ムシ”事件
田舎大好きで移住してきたペンションオーナーのS君は、無類の温泉フリークでもあります。湯船に浸かると目の前の海面が同じ高さという、手づくりの野趣豊かな海水露天風呂が自慢です。完成し、まずは奥様からと…… ゆったりと身体がほぐれたところで窓を開けると、潮風が。あ、月が。沖合を走る釣り船のシルエットが。
その時!ポツンと何かが湯舟に落ちてきた。アメンボウみたいにしばらくは手足を動かしていましたが、やがてゆったりと浮かんだまま。蜘蛛の赤ちゃんですねぇ、さては野天が気に入ったか!ミセスSは、湯船で声も出せず固まっているばかり……
田舎暮らしと虫(バグ)は共存共栄がオキテです。数年も経つとS君の家族は馴れてしまいましたが、引っ越した当時はアチコチの客室から絶叫があがっていたとか。
田舎の家には春の終わりからから夏・秋にかけて、いろんな虫たちが大挙押し寄せてきます。慣れるまで大変なのは蜘蛛、ムカデ、カメムシ、毛虫・・・慣れたら可愛いのはイモリ(虫ではないですが…)、ナナフシ、青虫など。何時でも歓迎なのはコオロギ、キリギリスですね。ボクの事務所でも夏の夜の残業時には、隅っこで小さなコンサートを開いてくれたもんです。
残念な“ナチュラルライフ”事件
W家にはエアコンがありませんでした。W氏の主張はこうです。「せっかく田舎暮しを選んだんだ。人工的な温度調整は止めて、自然のまま季節を感じて暮すべき。冬は寒い、夏は暑い、これこそナチュラルライフの真の姿だ!」と、エコロジスト指向都の彼はそう決意していたわけです。ところが田舎の夏は暑かった。窓を大きく造ったせいもあり、部屋の中でもアウトドア状態。休日には涼しい場所は猫に聞け、家族一同クッションを抱えて、愛猫の後ろを追いかけ、部屋中を放浪しています。
しかし田舎の夜は天国だった。夕方7時前後から海風が吹き始めます。こういった日は早めに夕御飯をお終いにして、虫除けスプレー、蚊取り線香、籐製座ぶとん、座椅子を持って庭に脱出。涼しい…… これがあるから昼の猛暑が我慢できるんだ。
部屋の電気を消すと満天の星。リ~ンリ~ンと虫の声。グラスを揺らすと氷がカラン。頬を撫でる海の風。「やっぱりエアコン要らないかなぁ」と、W氏は思い迷うばかり……
若い世代かシニア世代か、単身か家族か、100%の田舎か週末だけの田舎か…… それぞれの事情で異なるとは思いますが、田舎には都会を超える魅力があることは間違いありません。田舎への移住は、それから先の人生を決定づけるターニングポイント。10年後・20年後のスパンでじっくりと考え、あなたにピッタリの田舎を探しましょう。
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