驚愕!擁壁は住宅建設を考慮せずに
作られていた!
様々な危険な擁壁があるわけだが、実はもっと怖いことがある。そもそも擁壁は住宅を建てることを想定して建てるはずのものなのに、それが考えられていないというのだ。え、宅地を作るための造成、擁壁なのになぜ?と思うだろう。「擁壁の下の地盤の強度が建物に合わせて考えられていないのです」。擁壁の構造計算では、擁壁の下の地盤の強度を計算する際に、上に建つ建物の荷重を見込む必要がある。その見込む数字を上載荷重というのだが、これを考えないまま、数字を決めていることが多いというのだ。
実際、高橋さんが地盤調査をした新しく宅地造成された土地の上載荷重は10.0kN/m2が大半だったそうだ。しかし、木造2階建ての住宅の荷重は基礎の形状で変わるが、ベタ基礎では20.0kN/m2、布基礎だと30.0~50.0kN/m2となっている。造成したそのままで普通の2階建てを建てると、擁壁が耐えられなくなる可能性があるのだ。
擁壁下の地盤は造成が行われてからでは改良できない。造成から住宅建設まで一貫して行われているなら、対応した強度で造成されているかもしれないが、そうでないとしたら擁壁に荷重がかからないように、擁壁を避けて基礎杭を打つなどの設計をしなければならなくなるのである。これには費用もかかるし、場合によっては配慮はしても強度面で不安が出ることもある。
家は傾いても人は死なない、
だから基準はあまあまでも大丈夫?
もうひとつ、怖いのは宅地造成は道路や堤防、鉄道用地などに比べ、施工基準が緩いということ。右の表は国土交通省の建設汚泥再生利用指針検討委員会の資料で、利用目的別に用地を作る時にどの程度の品質が求められているかを一覧にしたもの。これでたとえば締固め度を見てみると、道路の路床、鉄道盛土で90~95%、空港盛土、道路の路体で90%などとなっている中、宅地は87%以上。これより低いと土砂崩れが起きるレベルだという。また、1層の仕上がり厚さは道路路床で20センチメートル以下、鉄道盛土で30センチメートル程度などとなっている中、宅地だけはまき出し厚さ30~50センチメートルと大幅に数値が違う。これは土を盛ってそれを上から固める時に一度に何センチメートルの土を盛るかという意味で、土の厚さは薄いほうが力をかけやすく、固くできる。ちなみに古墳は10センチメートルを締め固めて8センチメートルにする作業を繰り返して作られたそうで、将軍の墓は5センチメートルだったとか。それだけ丁寧に薄く積み重ねて固めて行ったから、長く持つわけだが、住宅は恐ろしく雑で良いことになっている。
これは道路や鉄道用地はちょっとでも沈んだら、そこで事故が置き、死亡に繋がるかもしれないが、住宅なら少し沈んでも人は死なないという判断なのだろうか。しかし、驚いてはいけない。これは盛土の場合の基準。擁壁を作る場合には一度壁内部の土を掘ってそれを埋め戻すが、この場合には上記の、ゆるゆるの基準ですら適用されない。だから、普通の木造2階建てが建たない土地ができてしまうのだろう。
最後にこうした擁壁、造成が生んだ、とんでもない現場をご紹介しよう。写真は擁壁の上に作られた造成地の、一番端に建つ住宅の駐車場である。左側に階段があるのが見えるだろう。そして、もうひとつ、駐車場の舗装に縦にひびが入っていることも分かるだろう。実はこの駐車場にはもう一か所、写真の右側にも同じように縦方向にひびが入っている。
こうした土地、住宅を買わないようにするためには、造成計画図面を見せてもらうのが手。擁壁の設計図、地盤調査の結果、切り盛土の分布を書いた図面などがあるはずだから、最低でもその中に書かれている上載荷重を確認しよう。可能であれば専門家に確認してもらえば安心だ。また、前出の国交省の資料のほか、横浜市建築局建築防災課がけ防災担当が作っている「あなたの擁壁は安全ですか?=石積み・ブロック積み擁壁のチェックシート=」も分かりやすいので参考にしてほしい。