渡辺英樹さんを襲った大動脈解離とはどんな病気?
「Romanticが止まらない」などのヒット曲で知られたバンド「C-C-B」のリーダー兼ベーシスト、渡辺英樹さんが7月13日に逝去されました。6月12日に倒れ、緊急入院ののち治療を受けておられました。突然の訃報で驚かれた方も多いのではないでしょうか。******** 報道から **********
渡辺英樹氏死去=ミュージシャン、「C-C-B」リーダー
時事通信 7月17日(金)18時19分配信
渡辺 英樹氏(わたなべ・ひでき=ミュージシャン、「C―C―B」リーダー)13日午後6時5分、急性大動脈解離による多臓器不全のため東京都内の病院で死去、55歳。
東京都出身。葬儀は近親者で済ませた。8月10日に東京都新宿区歌舞伎町1の21の7のライブハウス「新宿BLAZE」でお別れの会を行う予定。
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渡辺さんのご冥福をお祈りするとともに、この大動脈解離という病気について皆さんと考えてみたく思います。
大動脈解離とは
大動脈解離という病気はこれまでにもお書きしましたように(末尾の文献をご参照ください)、大動脈の壁が内外に裂けて起こります。下図では右上のパターンです。裂けてできた空間に血液が流れ込み、膨らんでいき、大動脈の外へ破裂したり枝を壊して他の臓器を傷つけたりします。いのちに関わることがよくある怖い病気です。大動脈解離には2タイプあります。上行大動脈がやられるスタンフォードA型と、やられないB型です。両者とも以下で解説していきましょう。
A型大動脈解離
A型は48時間で半数近い方が死亡するという危機的状態です。多くの場合、強い胸痛や背部痛がありますので、ただちに救急車などで病院へ行きましょう。CTスキャンで胸を調べれば、診断は容易にできることが多いです。病院へ行って調べた結果、もし大動脈解離でなければ喜ぶべきことで、こうした症状で病院へ行くことは恥ずかしいことではありません。
もしA型解離であることが判明すれば、ただちに手術が必要です。手術は上行大動脈を人工血管で取り替えることが多いのですが、解離の範囲や状態によってはさらに広範囲に直すこともあります。
手術死亡率はかつて20-30%を超えていましたが、近年は5%以内に改善しています。ただし、手術前にすでに脳や肝臓その他の大切な臓器に血液があまり流れていないなどの場合は、後遺症が残ったりいのちを落とすことが多々あります。つまりこのタイプの病気は、一刻を争う緊急手術が必要なのです。
B型大動脈解離
B型は通常は手術ではなく、しっかりと血圧を下げ、大動脈を守り、安定化することが治療の基本です。最近はステントグラフトという、皮膚を切らずに内側から治す方法も使われるケースが増えていますが、まずは血圧の安定が大切です。しかし、大動脈(多くは下行大動脈)が破れる、あるいは枝が壊れて内臓がやられるという状況では、外科手術が必要となることがあります。それもあって、B型でもまず緊急入院し、集中治療室できちんと状態を把握し、キメ細かい治療を受けることが大切なのです。
次ページでは、渡辺さんはどちらのタイプだったのか、また私たちができる予防法を解説いたします。