通常の食生活なら日本人は影響が小さい
この報道について食品安全委員会ではサイトやFacebookで間違った報道を訂正するとともに、次のように解説しています。今回の米国の規制は、トランス脂肪酸の削減を目的としています。しかし、日本と米国では脂肪やトランス脂肪酸の摂取量が異なることに留意する必要があります。
<トランス脂肪酸の平均摂取量(エネルギー比)※>
○アメリカ:2.2% ○日本:0.3%
※食品安全委員会「食品中に含まれるトランス脂肪酸」評価書より
WHOでは、心血管系疾患のリスクを低減し、健康を増進するための目標として、トランス脂肪酸の摂取を総エネルギー比1%未満に抑えるよう提示しています。
諸外国では、トランス脂肪酸摂取量がこのWHOの目標を超えている国や、我が国やドイツのように目標値内におさまっている国もあり、その対応は各国の状況に合わせて様々です。
日本では、大多数の国民は、WHOの目標を下回っています。脂質に偏った食事をしている人は、留意する必要がありますが、通常の食生活では、健康への影響は小さいと考えられます。
日本では、企業努力で加工食品のトランス脂肪酸の量が減っていますし、通常の食生活ならトランス脂肪酸の影響は心配することはありません。
また「食品中のトランス脂肪酸を低減するために、完全に水素添加すると、飽和脂肪酸になります。厚生労働省の『日本人の食事摂取基準』は、飽和脂肪酸の摂取基準を7%以下(エネルギー比)としており、日本の一部のグループは、これを超えていることから、飽和脂肪酸の摂取量が増えると新たな問題が生じる可能性があります」ということも指摘しています。
通常の食生活をしていれば日本人においては健康への影響は小さいこと、ただし脂質に偏った食事をしている人では、トランス脂肪酸摂取量のエネルギー比が1%を超えていることがあると考えられるため、留意する必要があります。また健康のためには、脂質だけでなく栄養バランス全体のよい食事を心がけることが大切です。
情報の読み方、集め方も考えよう
私たちは、様々なメディアから多くの情報を得て、またその情報をもとに、個人の情報もどんどん発信できる時代になりました。また私自身も、あるメディアの報道に関心を持ち、研究データの出元に追加の取材をしているうちに、報道内容との食い違いを感じた経験があります。
書き手の受け止め方の違いで、内容が異なったまま情報が一人歩きすることがあるのです。
今回の件も、私自身も情報を発信する立場として気をつけなければならないと強く感じたと同時に、情報を受け取る側も読み取る力を磨いていく必要性が高まっていると思います。
食品安全委員会や各省庁の行政関係のサイトいうのは、堅苦しく難しいというイメージもあり、皆さんが日常的に見る機会は少ないかもしれません。しかし食品の安全性などの重要な問題については、こうした公的機関の見解をチェックし、自分の判断材料の一つにすることを心にとめておいていただきたいと思います。
冒頭に、「米国と比べて日本はなぜ何もしないのか」という話題にふれましたが、食品安全委員会や農林水産省では「トランス脂肪酸」についてのファクトシートを公表していましたし、今回も新たなとりまとめが行われ、日本人の摂取量や科学的根拠、海外の取り組みなど、様々なデータを見ることもできます。
今回のことを教訓に、「食と健康」についての情報の集め方や読み取り方を考えてみていただければ幸いです。
関連リンク/
「健康に影響? トランス脂肪酸を含む食品」(食と健康)
参考/
トランス脂肪酸ファクトシート(食品安全委員会)
食品健康影響評価における最近の話題(食品安全委員会)
新開発食品評価書 食品に含まれるトランス脂肪酸 (食品安全委員会)
トランス脂肪酸について国際的に行われている取り組み 米国(農林水産省)
その他