都市部ほど、「子ども優先」になりがち
以前、保健師の仕事内容(1)でご紹介したように、市町村保健師の仕事は対象者の年齢や症状に合わせ、母子、成人、高齢者、精神などに分かれています。赤ちゃんから高齢者まで、幅広い人たちの健康を守ることが仕事といわれるのは頷けますし、その地域の人たちが生まれてから死ぬまで、ずっと保健師が関わっていくことの意義はとても大きなものがあると思います。しかしながら、実際の現場はちょっと違います。確かに幅広い層に対応した計画は立てているのですが、その地域の保健師が全ての分野に直接関わっているとは言い切れない現実があります。
これは自治体によりかなり差があるものの、とくに都市部では、母子(子どもたち)に関わることを最優先とするところが多く、所属している保健師のほぼ全ての力を注ぎ、他の成人や高齢者に関わる時間はほとんどない状態になっています。
では、母子以外の層への対応はどうしているのか?
答えは「外部委託」で、本庁に委託先との連絡を取る担当者をひとり置き、基本的に事業そのものは丸投げするわけです。
中高年の多くが保健師との接点なし
私の住んでいる東京都某区の特定健康診査(以下、健診)を例に説明しますと、まず案内用紙が対象者に封書で郵送されます。それを受け取った人は、リスト一覧にある区内の医療機関で健診受けることになり、結果の説明も同じ医療機関で受けます。そして何かしら数値に問題があり、特定保健指導が必要な場合は「特定保健指導利用券」が送付され、区が委託している事業者が行うことになるわけです。ということは、どのような結果が出ても、この健診を受けても地元の保健師と話をすることはおろか、出会うこともありません。実際、私が今の区に住み始めて10年以上が経ちますが、区の保健師と出会ったことは一度もありません。試しにかつての同級生たちに、自分の町の保健師に出会ったことがあるか尋ねると、男性はほぼ100%出会ったことがないと答えました。
子どもが先か、中高年が先か?
だから、私が自分や妻の親の介護問題でそれぞれに住む町に行き、相談をしたときも、相談相手となったのは委託先のスタッフばかり。やはり、地元の保健師と会うことは一度もありませんでした。こうした状況を、人手が足りないから仕方がないと思うべきでしょうか?
地元保健師の腕の見せどころですよ
実はこの問題、とてもデリケートです。子ども最優先の事業に疑問を呈しているわけですから、「じゃあ、子どもたちはどうしたらいいの!?」との批判が必ず起こるからです。それでも、あえて紹介したのは、ひとつの逆説的な真実があるからです。それは、中高年、とくに男性が地元の保健師に会う機会がないということは、その保健師たちも地域の成人男性たちと接する機会がないといえるからです。
日本は今、超高齢化社会に入っています。子どもの数はどんどん減り、中高年が爆発的に増えています。なのに、自治体の保健事業は数の少ない子どもに力を注ぎ続け、中高年に接することがほとんどないのは、不自然なことではないでしょうか?
委託先がしっかりやってくれればいい。データのみ保健師が把握していればいい。それでは、保健師の存在価値が薄れてしまいます。そもそも、住民の顔も見ずにその地域の健康課題に向き合うことができるのでしょうか?
保健活動というのは、地区診断(地区踏査)で産業や地形、年齢層などあらゆるものを見て周り、人と接し、データとつき合わせてこそ、実を結ぶ活動のはずです。
中高年の健康問題を把握し、行動変容を促すには、とくに家族関係や生活背景などあらゆる事柄を熟知している地元保健師の存在が欠かせません。データだけでは分からないことがたくさんあるからです。地元保健師の一番の見せ場(活躍の場)になると私は思っています。そんなおいしい現場を、外部に任せてしまっていいのですか? データだけで判断される住民は満足していると思いますか?
どうしたらよいのか、考えてみてください
人手が足りない、地域に出て行く時間が取れないなど、現場保健師の抱える悩みもよく理解していますが、このままでは中高年の健康問題は野放しのままになってしまうと、私は感じています。参考までに、2012(平成24)年度の市町村国保の特定健診受診率は全国平均で約34%です。うち、働き盛りの40~54歳男性だけに絞ると、20%を切っています。この数値がなかなか上がらない原因の一旦も、この問題が関係していると思うのは考えすぎでしょうか?
保健師の仕事は、時代の流れとともに変えていく必要性があるはずです。上から降りてきた仕事をするだけでなく、自ら政策を立案することもできるはずです。これから保健師を目指そうと思っている皆さん、現役の保健師さんには、この問題をしっかり考えていただきたいと願っています。