皮膚・爪・髪の病気

【症例画像も】乾癬の原因・症状・最新の治療法

【皮膚科医が解説】「乾癬(かんせん)」は、皮膚が赤くガサガサになり、一度よくなっても同じ症状が再発しやすいやっかいな病気。なかなか完治せずお困りの方も多いと思います。しかし乾癬治療法は、効果的な注射薬が開発されたことで劇的に変わりました。副作用が少なく、大きな効果を数週間で実感できる治療薬について詳しく解説します。

野田 真史

執筆者:野田 真史

皮膚科医 / 皮膚の健康ガイド

乾癬とは……アトピー性皮膚炎との違い・見分け方

医師

皮膚が赤くガサガサになり、再発を繰り返す乾癬。アトピー性皮膚炎との区別することが重要です

「乾癬(かんせん)」と聞いてすぐにどんな病気なのか思い浮かぶ方は、少ないかもしれません。実際に症状が出ている患者さんに「これは乾癬という病気です」と言っても、「?」という顔をされることも多いです。実は皮膚科医の中で乾癬はホットなトピックです。なぜかというと治療法が10年ほど前に比べると大きく進歩し、重症例でも注射による治療薬でうまく治せるようになったからです。

乾癬は、皮膚が赤くなりガサガサする病気としては、アトピー性皮膚炎の次に多いもので、区別がつきにくい場合もあります。私のところに来た患者さんでも、今まで湿疹として治療してきたけれどなかなか治らないという訴えの方が、よく診ると乾癬だったということが何度かありました。乾癬は頭皮、肘や膝の表側にできやすく、アトピー性皮膚炎とは違って、ガサガサした赤い部分の周りの境界がはっきりしています。

アジア人ですと0.5%、つまり200人に1人ほどが乾癬になります。結構多いという印象を持たれると思います。ちなみに白人では2%、つまり50人に1人が乾癬なので、街中でもよく見かけますし、アメリカではメジャーな病気として扱われています。
 

乾癬の写真・症例画像……一般的な症状のものと重症例

■乾癬の症例画像
乾癬の写真・症例画像

乾癬の症状。皮膚が赤く、ガサガサに。まわりとの境界がはっきりしているのが特徴


■重度の乾癬の症例画像
重症の乾癬。範囲が広くぬり薬では難治。新しい注射薬の出番です。

重症の乾癬。範囲が広くぬり薬では難治。新しい注射薬の出番です

 

乾癬の治療法……重症例に対する治療薬の効果・副作用・安全性

乾癬は、症状が軽い場合には塗り薬を使いますが、重い症状に劇的に効くという薬はつい8年ほど前まではありませんでした。飲み薬や紫外線を当てる治療はあったものの、効果が不十分だったのです。

2010年に「レミケード」「ヒュミラ」という注射薬が保険適応内で使えるようになり、それにより乾癬治療は大きく変わりました。これらはTNF-αという乾癬の炎症に強く関与している物質を抑える薬です。3ヶ月間、注射を2週間~2ヶ月程度の間隔で使うだけで、ほとんどのガサガサした赤みが消えることもあります。しかも、ヒュミラは点滴ではなく、予防接種のように皮膚に刺すだけの注射なので、痛みも少ないですし簡単です。病院を定期的に受診して問診や血液検査、レントゲンを受ける必要はありますが、それ以外は自宅で自分で注射している患者さんもいるくらいです。

注射は副作用が大きいのでは 、と心配される患者さんも多いのですが、以前使われていた飲み薬よりは副作用が少なく、定期的に検査をしていれば安心して使えます。わずかに結核にかかりやすくはなりますが、検査を受けていて実際に結核になる方はまれです。

さらに、2011年には「ステラーラ」という注射薬が登場しました。乾癬を引き起こす原因として重要なIL-12とIL-23を抑える薬です。この薬は 3ヶ月に1回の皮膚への注射でいい皮膚の状態を保てます。しかも、結核に対するリスクも少ないです。

2015年以降、「コセンティクス」、「ルミセフ」、「トルツ」というさらに新しい注射薬も出ました。これらはIL-17という乾癬の原因とされる物質をブロックする薬なので副作用も少なく、非常に効果的です。更に最近では2018年以降に「トレムフィア」「スキリージ」といった前述のIL-23をより選択的に抑える注射薬が発売になりました。また、ほかにも治験(新しい薬が認められる前にテストすること)の最終段階にきている注射薬がいくつかあるので、これから数年のうちにまだいくつか新しい注射薬が発売になることと思います。乾癬の治療はより便利になっていくことでしょう。

ただ、これらの注射薬でも一定の間隔で打ち続けなければ効果を保つことはできません。乾癬そのものを直しているのではなく、乾癬の勢いを抑えているからです。それでも注射薬のおかげで、Tシャツを夏に着られるようになった、何となく気が引けていた温泉に行けるようになった、と喜ばれる患者さんがいるように、生活は大きく変わります。

それ以外にも、アメリカでは2014年から、日本では2016年から乾癬に使われている「オテズラ」という飲み薬があります。これは1日2回飲むだけで採血もいらない、というとても使いやすい薬です。注射薬は日本皮膚科学会が認めている大きな病院でしか使えませんが、オテズラはクリニックでも処方できるので治療の幅が広がりました。効果は注射薬にはかないませんが、注射を打つほどではないけれど塗り薬では症状を抑えられない、という場合にいい選択肢になることと思います。実際に私自身が使った感想としても副作用が少なく、患者さんの満足度が高い治療法です。乾癬患者さんは若くて仕事をされている方が多いので、大きな病院を定期的に受診して注射を打つのが難しい場合も多いです。オテズラと塗り薬、場合によっては紫外線をあてる治療も併用する、というのがクリニックにおける有効な治療法になります。

オテズラでも改善に乏しく、また大学病院など大きな病院は受診できないといった場合には、「チガソン」「ネオーラル」といった以前からある内服薬を選択する場合もあります。定期的な採血が必要ですが、効果は注射薬に劣るもののかなりの改善は期待できます。
 

新薬の効果が高いにもかかわらず副作用が少ない理由

なぜ新しい注射薬は副作用が少ないのによく効くの?と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。風邪をひいたときに、自分の体の中の免疫が働いて細菌やウイルスを攻撃するのと同じように、皮膚にも免疫の力があります。この自分自身の皮膚免疫が異常になってしまい起こるのが乾癬です。以前から乾癬に使われてきた薬は体内の免疫全体を抑えて治す、というコンセプトだったため、感染症になりやすくなる、ほかの臓器にもダメージを与える、という強い副作用がありました。

しかし、2010年以降に出てきた新しい薬は免疫のうちごく一部、乾癬の原因になる部分だけを抑える治療なので、副作用が少ないのです。しかも乾癬の原因となっている異常な免疫(TNF-α、IL-23、IL-17と呼ばれます)をピンポイントでブロックするので、効果は高くなるというわけです。ここ10年の研究によって異常な免疫の原因がわかり、そしてそれをブロックする技術が開発されたことで可能になった治療法なので、まさに最新の研究成果が生かされて劇的に治療法が変わったのが乾癬と言えます。
 

まとめ

乾癬の治療法で一番メジャーなのは今でもビタミンDの塗り薬やステロイドの塗り薬になります。多くの方はこれだけである程度症状を抑えられますが、クリニックでも紫外線照射やオテズラの内服といった副作用が少ない効果的な治療ができるようになってきました。重症で体の広い範囲が赤くガサガサしている場合には認定施設でできる注射薬による治療が非常に効果的です。ここ10年ほどの医療の進歩で乾癬は上手に治療できるようになってきました。塗り薬だけでなかなかうまく治らない場合には、皮膚科医に相談してほかの選択肢も検討してみましょう。
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