本場イギリス
そして台湾での『ハムレット』
横田
シェイクスピアの本場である英国公演。お客様の反応はとても良かったと思います。(藤原)竜也君が凄く背負って……極限まで”背負った”エネルギーを全部放出する姿が……もう、ね。竜也がそれまで背負ってきたものを解き放った姿が一番印象に残っていますね。そのエネルギーをイギリスのお客様もしっかり受け止めて下さっていました。
――『ハムレット』のカンパニーは台湾公演にも行かれています。
横田
台湾は最初から凄くウェルカムな状態でした。お客様から”待っていた!”という空気もしっかり伝わってきましたね。国民性もあるのでしょうが、楽しむということにとても積極的だと感じました。
僕はホレイシオ役を演じていたのですが、台詞で「ホレイシオ、どうしたのだ、何故ここにいる、何故」と問われて「授業をさぼるのが性分でして、殿下」と返すと客席からどっと笑い声が聞こえるんです。一瞬戸惑いつつも「そ、そうか、これはホレイシオ流のギャグだもんな……うん」と納得してみたりして(笑)。
そういう場面が劇中にいくつかあって、オイオイ!とこちらもちょっと笑っていた所で、平(幹二郎)さんが「もしかして、シェイクスピアの時代の観客たちもこうやって舞台を愉しんでいたのかもしれないな」って仰ったんです。それを聞いてなるほどなあ、と思いました。
――『トロイラスとクレシダ』の製作発表でも「シェイクスピア作品だということで変に構えないで欲しい」という言葉がいろいろな方から出ていましたね。
横田
ここ数年、シェイクスピア作品に対しての”壁”みたいなものは大分なくなったと思うんです……蜷川さんや鋼太郎さんの仕事の素晴らしさもあって。本当はもっともっとハードルが下がって、若いお客さんがどんどん劇場に来て下さると嬉しいんですが。
『トロイラスとクレシダ』に関しては、演劇ファンもキャストを楽しみに観にいらっしゃる方もどちらにも楽しんで頂けるような舞台になればと思っています。
――アキリーズは観客から見て頷ける部分が多い人物だと思いました。とても人間的で。
横田
確かに。楽しい事が好きだったり、ツラい事が嫌いだったり、好きな人と嫌いな人に対しての態度が全然違ったり。普段、日本人である僕たちが何となく隠しているような事が全部毛穴から出て来ちゃうような人物ですよね。ちょっと残念な部分もありつつ(笑)、そういうところがまた可愛かったり、憎らしかったり。
演出の鵜山さんからは「横田は以前どの役をやったの?」と聞かれて「僕、ヘクターをやりました」と答えたら「えええーっ!」って(笑)。蜷川さんはヘクターで僕のことを使ってくれて、鵜山さんはアキリーズ。両方のイメージがあるということは……いい役者だっていうことですよね(笑)。アキリーズは難しいですが本当に面白い役だと思います。
空白の二年間は
まさかの○○通い!?
――横田さんは文学座にお入りになる前に桐朋の演劇科をお出になっていますが、ストレートでの入学ではないんですよね?
横田
そうです、2年間空白の時がありますね。最初は浪人して大学受験の準備をしていたんですが、途中で麻雀に目覚めまして、代々木の雀荘にめちゃめちゃ通いました(笑)。
――そんな青春背負い投げの状態からどうして俳優の道を?
横田
2年目に、流石に働かないとまずいと思って、高校の時の同級生のアパートに居候しながら、池袋の百貨店の家具売り場で販売の仕事を始めたんです。僕が通っていた高校は文化祭がとても盛んで、教室で演劇をやったり、映画製作やミュージカルの上演をしたりといろいろあったんですね。その頃経験した楽しさがどうしても忘れられなくって、家具を売りながら「俳優ってどうやったらなれるんだろう」と調べていく内にやっぱり舞台だろうと。
それで、日本で舞台の老舗劇団と言えば俳優座、俳優座に入るには桐朋からが良いんじゃないかと桐朋の演劇科を受験した訳です。
――桐朋をご卒業後、文学座の研究所に入られますが、ここからどう蜷川さんと出会って行かれたのか気になります。
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