コウモリは人獣共通の感染症を拡大させる可能性がある
コウモリは鳥類ではなく、我々に近い哺乳類です
コウモリは鳥の羽と異なり羽毛がなく、前足に飛膜と呼ばれる膜があります。その膜が前足から後足まで伸びていて、翼のように飛行することができます。後足で木などに掴まることはできますが、歩行ができません。
一般にイメージされやすい特徴として吸血がありますが、実際に行うのはごく一部の種類です。主には夜行性で、植物や昆虫などの小動物を捕食しています。
哺乳類であるがゆえに、人獣共通の感染症を起こすウイルスなどを保有する可能性があります。そしてその翼ゆえに、感染症を拡大させる可能性があるわけです。
ハンタウイルス感染症
日本でも1960年代に大阪梅田の居住環境の悪い地区で流行した感染症です。1976年に韓国でアカネズミからウイルスが発見され、そのアカネズミの居住場所である川の名前から、「ハンタウイルス」と呼ばれるようになりました。腎臓の障害を起こして出血傾向を示す腎症候性出血熱(HFRS, Hemorrhagic fever with renal syndrome)や主に肺の障害を起こすハンタウイルス肺症候群という病気を起こします。
ハンタウイルスは、ブニヤウイルス科ハンタウイルス属のRNAウイルスで、世界で同じような種類のウイルスが存在します。主にネズミによって感染が拡大し、ネズミの触れたものを鼻・目・口で触れたり、ネズミに噛まれたり、ネズミのフンや尿に含まれるウイルスを吸い込むことで感染します。ヒトからヒトへの感染もまれですが報告されています。ネズミだけでなく、コウモリもこのウイルスを保有していると報告されています。
ウイルスが体内に侵入して発症するまでの潜伏期間は2週間程度です。初期症状は風邪に似ていて、
- 呼吸数が多い頻呼吸
- 心拍数が多い頻脈
- 下の方の背中の痛み
- 高熱
- 筋肉痛
- 嘔吐、嘔気、下痢
- 全身倦怠感
などがあります。腎症候性出血熱では、粘膜や皮膚での点状出血、日焼けのように顔が真っ赤になる、低血圧からショックを起こす、1週間以内に腎臓の機能が低下する腎不全がみられます。ハンタウイルス肺症候群では急に悪化し、呼吸ができなくなる呼吸困難になります。
ウイルスに対する治療方法はないために、主に症状に対する対症療法になります。腎症候性出血熱では、6~15%、ハンタウイルス肺症候群では50~75%の死亡率です。
ヒストプラズマ症
ヒストプラズマとは、Histoplasma capsulatumと呼ばれる真菌、カビです。このカビが呼吸器や傷から体内に侵入することでヒストプラズマ症を引き起こします。症状はほとんどみられませんが、軽い風邪のような症状もあります。肺に侵入してしまうと肺炎を起こし、高熱や咳などの症状があります。免疫不全などがあると全身感染となり、肝臓や脾臓が腫れてしまう肝脾腫や、副腎・骨髄・脳などにヒストプラズマが侵入して、そこで炎症を起こします。このカビは温かくて湿気の多い環境を好み、コウモリのフンや尿などを栄養に増殖すると言われています。治療は抗真菌薬を使いますが、症状に応じた治療も合わせて行うことになります。
コウモリが関係すると言われる病原体
コウモリはエボラウイルスを保有している中間宿主とも言われていますし、オーストラリアなどでは狂犬病ウイルスを保有していると報告されています。…エボラ出血熱の原因・症状・予後
…狂犬病ワクチンの接種・時期・副作用
コウモリ対策
日本ではあまり対策がされていませんが、オーストラリアではコウモリに接触することの多い人は狂犬病ワクチンの接種を勧められていますし、アメリカでは国外からのコウモリの輸入を禁止しています。日本ではコウモリからの人への感染報告はほとんどありませんが、コウモリを捕まえたり、素手でさわったり、ペットとして飼育するなどの接触はできるだけ避けた方がよいでしょう。
コウモリの生息地域は山だけでなく、ビル、廃屋、人家の屋根裏などにも巣を作ることがあります。フンが大量にある場合は、コウモリが住み着いている可能性があります。夕方に家を観察して、コウモリが出入りしていないかどうか、出入り口にフンが落ちていないかどうかを確認し、その穴や隙間を塞ぐことが大切です。
コウモリは主に夏に繁殖期を迎えます。そのため夏に穴を塞ぐと、巣にコウモリの子どもが残ってしまい、死亡腐敗する可能性がありますので、消毒が必要になります。できれば、夏は避けた方がいいかもしれません。
コウモリは鳥獣保護法の対象になっていますので、勝手に殺傷・捕獲することは禁止されています。
くれぐれも素手でコウモリを触らないようにしてください。