肥満を作り出す細胞「脂肪細胞」とは
肥満を作り出す細胞があることをご存知でしょうか?その役割を担う「脂肪細胞」は、食べ過ぎて余分なカロリーとなった栄養素を、脂肪のかたちにして蓄えることのできる細胞です。太古の大昔、食べ物が豊富に無かった時代には飢えを乗り切るための重要な細胞でした。しかし、現在のように豊かな時代では、無用の長物として悪者扱いされるように見方が変わってきています。
適度な脂肪を溜め込んでいるうちは害は無いのですが、溜め込みすぎてパンパンに膨れた「肥大化脂肪細胞」となると大変です。大きさが上限に達しこれ以上脂肪を溜め込めない状態になると、脂肪細胞は機能不全に陥り、生活習慣病の原因となる種々の悪玉物質を放出するようになります。
たとえば、レプチンが過剰に分泌されると交感神経の活動を高めすぎ、血管が収縮してしまうので血圧の上昇を引き起こします。また内臓に存在する脂肪細胞が肥大化脂肪細胞になると、溜め込んでいた脂肪が遊離脂肪酸として放出されるため、インスリンの感受性がにぶり血糖値が高くなります。これら一連の生活習慣病は「メタボリックシンドローム」としても有名です。
以上の説明を見てみると、現代において脂肪細胞は悪者でしかないように思われます。しかし、最新の研究では違った側面も発見され始めています。
健康長寿のための最適な体脂肪量が存在するかもしれない
脂肪細胞が生活習慣病を改善する?
脂肪を溜め込みすぎてパンパンに膨れた肥大化脂肪細胞が、悪者であることは先ほど説明したとおりです。しかし、肥大化する前の普通の脂肪細胞については、大変興味深い研究結果が報告されています。大阪大学医学部の松澤教授により、脂肪細胞から分泌される「アディポネクチン」が発見されました。この物質は生活習慣病と呼ばれるメタボリックシンドローム、糖尿病、高血圧、高脂血症、動脈硬化、さらにがんの予防と改善の効果が認められています。
アディポネクチンは肥大化脂肪細胞では分泌量が減少し、また痩せ過ぎで脂肪細胞が極端に少ない場合でも、正常に分泌されないことが分かっています。
このように脂肪細胞は体にはなくてはならない存在ですが、体の脂肪のバランスが乱れるとアディポネクチンの分泌が減り、動脈硬化、糖尿病、高血圧、がんになる可能性が高くなります。
また、米国ワシントン大学からの研究報告では、脂肪細胞中のNAPMTという酵素は細胞外にも分泌され、脳の視床下部における長寿遺伝子SIRT1の発現上昇に効果があるそうです。
以上の結果は、健康長寿のための最適な体脂肪量が存在する可能性を示しています。また、多くの研究で分かっている、太めの体格の人のほうが生存確率が高い、という現象を説明する助けになるだろうと研究者は説明しています。
■参考資料
- アディポネクチンと糖尿病・心血管病の分子メカニズム
第128 回日本医学会シンポジウム - 脂肪細胞とインスリン抵抗性
星薬科大学オープン・リサーチ・センター