マリア・パヘス
<マリア・パヘス Profile>
スペインセビージャ生まれ。4歳からフラメンコとスペイン舞踊を学び始める。15歳からプロとしての活動をスタートし、アントニオ・ガデス舞踊団に入団。1990年、マリア・パヘス舞踊団を設立。1994年には、アイリッシュ・ミュージカル『リバーダンス』に主演ダンサーとして出演。コレオグラフィー国家賞を受賞し、2002年にはスペイン舞踊界の最高賞と言えるナシオナル・デ・ダンツァ・デ・エスパーニャ賞、2015年には日本の文化勲章に相当するスペイン芸術文化功労金賞など、多くの受賞歴がある。フラメンコを愛する映画監督カルロス・サウラの作品『カルメン』(83)、『恋は魔術師』(85)、『フラメンコ』(95)など多数出演。
男性が作り上げた理想の女性像ではなく、
生身の女性を描きたかった
――今、カルメンという題材を取り上げた理由は?かなり前から、女性について自分が考えていることを作品にしたいと思ってきました。「カルメン」についてはよく作って欲しいと依頼されてきましたが、まだ未熟だとお断りしていました。しかし私も歳を重ねて経験を積み、客観的に物事が見られるようになり、自分が何を言いたいかが明確になってきました。女性について責任を持って皆さんに伝えたい、女性の権利を主張したいと思い、この作品を作りました。
――女性の権利について主張したいと思われたのは、どんな時ですか。スペインで?
生まれてからずっと男性と女性は不平等だと感じてきました。今も男女平等を求める戦いは続いています。私は若い頃からよく旅をしましたが、これはスペインだけでなく、世界中のいたるところで起きていることだと思います。
今回の作品を作るのに当たって、世界中の多くの女性たちにインタビューをしました。宗教、言語、職業や生活スタイルの異なる人、成功している人、そうでない人……。話を聞いて感じたのは、女性はみんな同じような思いや願いを抱いている、ということ。皆さん、社会における女性の立場を真っ当に主張したいと考えていました。
――日本の女性にもインタビューなさいましたか。
はい。京都ではかつて芸妓だったご高齢の女性にインタビューしました。それだけではなく、今回来日して取材を受けている最中、コミュニケーションから感じ取れることも多いです。インタビューだけでなく、日常の会話の中からわかることもたくさんありました。
――なぜ女性を描くのに、カルメンという題材が必要だったのでしょう?
私はあえてカルメンという登場人物を通して、女性のあり方を描きたいと考えました。というのは、カルメンは男性の作者によって描かれ、男性社会が作り上げた偶像だからです。本当の生身の女性はこうなのだ!と、小説で作られたカルメン神話を打破したかったのです。小説ではドン・ホセの悲惨さや悲劇を伝えるためにカルメンを登場させています。最終的にホセはカルメンを殺し、言葉を封じてしまう。私は文化や国を問わず、生身の女性の声を伝えたいと思いました。すべての女性たちが声をあげるべきだと感じたからです。
――カルメンというと、古典的なイメージも強いのでは?
カルメンを現代の社会に映し出すことは可能だと思います。カルメンを小説の中で生み出した原作者のプロスペル・メリメは男性ですし、ジョルジュ・ビゼーがオペラにする時にも2人のフランス人の男性が脚本を翻案しました。
男性たちが小説やオペラの中で描くカルメンは、若く、美しく、セクシーな存在です。つまり女性が社会で評価されるには、美しさや若くセクシーであることは、必須条件なのです。
それは現代においても同じことがいえます。朝起きた瞬間からお化粧し、お洒落をする。社会的に素晴らしい女性とはこうあるべきというイメージのために、やらなければいけない義務のような形でやらされます。社会が女性に対して求めていることは、結局男性の欲望のためで、男性に押し付けられたものにすぎないのではないか。私はこの作品の中で考察を加え、それは違うだろう、生身の女性をもっと描くべきではないかと、本作に至ったわけです。
(c)David Ruano