糖尿病と人工透析
高齢社会の日本では5人に1人は糖尿病あるいはその予備群です。そして、2013年末に人工透析を受けている人が314,000人いて、その5人に2人は原疾患が糖尿病です。週2~3回行う人工透析は高額な医療費が必要で一人あたり年間500万円以上(総額1.5兆円以上の国庫負担)、透析をした日は疲労が強くて仕事ができないので他の病気の治療費の軽減措置もあり、障害者年金などを含めると破格の金額が人口400人に1人の人工透析患者に費やされています。特に高齢化がより進んでいる地方自治体にとって、透析による医療費増は財政の圧迫要因のひとつです。私はかねてから糖尿病腎症による透析は医原病の一つではないか?!と考えていました。私の以前の担当医は簡易な試験紙による尿タンパクが陰性だとそのまま放置して、微量アルブミン尿検査を私が注文しない限り行わなかったのです。上記のように尿タンパクが持続的に陽性になってからアルブミンを検査しても手遅れで、腎症進行を抑える大切な第1期、第2期を逃してしまっているのです。
患者の尿タンパクが陰性でも3~6ヵ月に1回、少なくとも年1回は微量アルブミン尿を検査すべきというエビデンスがあるのですが医師がそれを知らない、あるいは守らない!だから冒頭の待合室のポスターになった訳で、本当は診察室に貼っておくべきものなのです。
アルブミンとは
アルブミンは肝臓で1日約10g合成されているタンパク質です。アルブミンはホルモンなどの水に溶けない物質や薬の成分などを各組織に運ぶ役目があり、アルブミン自体が血液の浸透圧を保つ働きがあります。高度なタンパク尿で血管外に失われると、血液は一定の浸透圧を保つために血管外に水分を漏出し、それがむくみや腹水になるのです。腎臓の糸球体の濾過膜は、分子量10,000位の分子なら水と同じような速度で透過させますが、分子量70,000~80,000以上のものは通過できません。アルブミンの分子量は微妙な69,000で、通常はわずかに濾過されていますがそれ以上大きなタンパク質は濾過されません。糖尿病になると糸球体に流入する血液量が増加し、毛細血管の内圧も上昇します。この状態が長く続くとアルブミンが尿に排泄されて早期腎症が発症するのです。ただし、微量アルブミンの検査は非常に精密なものなので、クリニックや普通の病院ではできません。それも医師がめんどうがる理由の一つかも知れませんが、遠慮なく注文しましょう。
eGFRとは
腎機能検査のなかで老廃物の排泄能力を知る最も鋭敏な検査は糸球体濾過値(GFR)です。これは1分間に糸球体で濾過される血しょう量で表わしますが、直接計測することはできません。そこでクレアチニンのように自由に糸球体を通過して尿細管での再吸収もなく尿中に排泄される物質を計測して、それを1分間で腎臓から尿中に排泄するに要する血しょう量で表わします。ほぼGFRの近似値になるのでこれをクレアチニン・クリアランスと言います。しかし正確な尿量の測定が必要ですから簡易なものではありません。そこで血清クレアチニンの濃度は糸球体濾過値に依存しているので、それと男女の性別、年齢を反映してGFRを推算できる公式が考案されました。これがeGFRで、腎機能を表しています。eGFRは腎機能の正常な人にはそれ程確実なものではないので、60以上あれば心配ないとされます。それより毎年の低下率が大きい人は人工透析のリスクが高いので専門医の管理が必要となります。
eGFRが90以上で正常アルブミン尿なら第1期(腎症前期)です。
なお、記事中で度々使われたクレアチニンとは、アミノ酸のアルギニンなどの代謝産物として生じるクレアチンが、筋肉中でクレアチンリン酸を経て、脱水をうけて生成された物質です。ほとんどが尿中に排泄されるので腎機能の指標となります。
多くの研究で2型糖尿病患者のGFR(eGFR)の低下率を高める危険因子は、尿中アルブミンの多さ、収縮期血圧の高さ、ヘモグロビンA1C(%)の高さ、血中ヘモグロビンの低下、ヘビースモーキング(タバコ)、糖尿病網膜症があることが証明されています。1型・2型糖尿病を問わず、GFRの低下率は個人差が大きいので、これらのリスク因子に患者自身が関心を持たなくてはなりません。