チェルシーに移籍してもチェルシーでプレーできない?
もっとも、将来性豊かな選手を早めに獲得するのは、チェルシーのチーム戦略である。そして、チェルシーの一員となった20歳前後の選手は、多くの場合において他クラブへ貸し出されていく。欧州のサッカー市場でローンと呼ばれる期限付きの移籍だ。今シーズンは実に20人以上の選手が、イングランド、スペイン、オランダ、ベルギー、イタリアなどでプレーしている。本田圭佑(28歳)が在籍するACミラン(イタリア)でも、22歳のマルコ・ファンヒンケルが1シーズンの期限付きでローン移籍している。
ローンは1シーズンとは限らない。
たとえば、2012年1月に17年までの5年契約を結んだルーカス・ピアソン(ブラジル)は、1年後の13年1月にマラガ(スペイン)へ貸し出された。同年8月にはフィテッセ(オランダ)の一員となり、当時在籍していた日本人FWハーフナー・マイクのチームメイトとなった。そして今シーズンは、長谷部誠(31歳)や乾貴士(26歳)とともにフランクフルト(ドイツ)でプレーしている。
2013年9月にチェルシーと5年契約を結んだクリスティアン・アツは、そのままフィテッセへローン移籍した。今シーズンはプレミアリーグのエバートンでプレーしている。
ルーカス・ピアソンは94年1月生まれの21歳で、アツは92年10月生まれの23歳だ。武藤はアツと同じ92年7月生まれである。武藤がチェルシーと契約を結んだ場合も、他クラブへ貸し出される可能性が高い。
それ自体は悪いことではない。チェルシーで出場機会に恵まれないまま時間を過ごすよりも、戦力として計算してもらえるクラブで経験を積むメリットは大きい。ローン先でめざましい活躍を見せれば、チェルシーから呼び戻されるだろう。
かりにローン移籍が続いても、結果を残し続ければローン先から買い取りのオファーを受けることもできる。欧州という巨大なマーケットで継続的にプレーするきっかけとして、チェルシーを利用するぐらいの気持ちで移籍すればいいのだ。
オランダ・エールディビジやフランス・リーグアンは、ステップアップの舞台として武藤に相応しい。どちらもサイドアタッカーに積極的な仕掛けを求めるリーグで、ドリブル突破が得意の彼ならスムーズにフィットできるクラブを見つけやすい。ピアソンやアツがプレーしたフィテッセはチェルシーとのパイプが太く、今シーズンも3人の選手がチェルシーから“派遣”されている。
伸び盛りの選手に何よりも必要なのは、高いレベルでの実戦経験だ。成功も失敗も含めて成長の糧となる。オランダやフランスは10代後半から20代前半の選手が多く、ステップアップを期す野心がピッチ上でぶつかり合う。その意味でも、プロ2年目の武藤にはふさわしいと言える。
移籍先で出場機会をつかめないと、日本では「失敗」の烙印を押されがちだ。しかし、ブラジル人でも移籍先のクラブに馴染めない選手はいる。
監督が代われば使われる選手は変わり、同じポジションに即戦力の実力者が加わることもある。「このクラブではチャンスがない」と自分で判断したら、Jリーグに戻ってくればいい。日本で地力を蓄え、再チャレンジの機会を待てばいいのだ。
武藤が所属するFC東京は、彼の意思を尊重するとしている。
ならば、迷うことない。日本代表でも必要不可欠な戦力となるために、新たな一歩を踏み出してほしいと思う。