水中毒とは……水の飲みすぎが原因の「低ナトリウム血症」
熱中症予防にも欠かせない水分補給。しかし誤った水分補給で命を落とすこともあります。医師が薦める正しい水分補給とは?
「水中毒」と聞いてもピンとこない方も多いかもしれません。文字通り、水の飲み過ぎが原因で引き起こされるもので、正確には「低ナトリウム血症」というものです。「ただの水の飲みすぎで死ぬ」と聞くと、怖く感じられる方もいるかもしれませんが、通常の生活で水中毒になるようなことはあまりないのでご安心ください。日本人はむしろ塩分を摂りすぎているぐらいですから。
では、どのような場合に水中毒になるのでしょう? それは、大量の汗をかいたときや、大量の嘔吐もしくは下痢をしたときなどに、水分を補おうと大量の水を体内に入れた場合に起こります。水だけを急に大量に飲んでしまうことで、体内の電解質のバランスが崩れてしまうからです。
汗や涙が口に入るとしょっぱいと思いますが、これは私たちの体液に塩分が含まれているからです。たくさんの体液が失われるとそれだけ塩分も喪失してしまうので、汗を多くかいた場合などには水分と同時に塩分も補給しないといけないのです。
水中毒の原因……体内でのナトリウム濃度の低下
血液中には一定濃度のナトリウムが必要とされています。通常は、腎臓から出されるナトリウム量が調節されることで、体内のナトリウム濃度が維持されています。しかし、急な変化にはこの調節機能でも対応しきれません。体内のナトリウム濃度が大きく変化することでさまざまな問題が生じます。ナトリウム濃度が低下すると、水中毒となり危険な状態になります。
水中毒による死亡例も
マラソンなどの激しい運動では汗でたくさんの塩分が失われます
また、2007年、アメリカのラジオ局が開催した水飲みコンテストで「水中毒」をおこして死亡するという事件がありました。この女性は3時間で7リットルの水を飲んだということです。もちろん、塩分はとっていません。
水中毒の症状……軽い疲労感から始まり、頭痛・嘔吐・痙攣など
通常、私たちが、1日に水を1.5~2.0リットルをとるぐらいでは問題はありません。しかし、ナトリウムを含まない水分摂取を過剰に行うと、体内のナトリウム濃度が下がり、上記でのご説明通り、水中毒を起こす可能性があります。低ナトリウム血症は軽い疲労感から始まり、頭痛、嘔吐、精神症状をきたし、ひどい場合は痙攣、昏睡を経て死に至ることもあります。
水中毒は水の量に比べ、ナトリウム(塩分)が不足している状態であるので、「マラソンなどの運動により大量に汗をかいた場合」や「嘔吐・下痢により体内の電解質を喪失した場合」などには、塩分の補給が必要になります。
また、塩分を効率よく吸収させる場合には糖分も必要です。腸で吸収される際に、ナトリウムとともにブドウ糖があると効率よく吸収できます。
嘔吐・下痢などの脱水時には水ではなく経口補水液の活用を
運動の汗を補うにはスポーツドリンクがいいでしょう
急性胃腸炎の嘔吐・下痢では、スポーツドリンクの塩分では足りないことが多く、逆に糖分は多すぎになってしまうので、WHOが推奨している経口補水液(ORS)が適しています。経口補水液は、下痢や嘔吐などの脱水や熱中症予防に対して、水分、塩分補給のために用いられます。
簡単な経口補水液の作り方
ドラッグストアなどにも、「オーエスワン」などの経口補水液が売っていますが、経口補水液は家庭でも簡単に作ることができます。1リットルの水に、小さじですり切り6~8杯の砂糖(小さじ1杯は5ccなので30~40g)と、小さじ1/2杯(2~3g)の塩を混ぜるだけです。これにオレンジジュース100ccを混ぜるとカリウムも補充できますし、味も良くなります。小さじがない場合は、ペットボトルのフタがちょうど5ccになるのでこれで代用も可能です。
脱水がひどい場合には、適度な塩分や糖分の補給が必要です。ただし、スポーツドリンクは糖分が多いので、飲み過ぎには注意しましょう。