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「人間は脳の10%しか使っていない」説の真実は

普段人間の脳は10%しか働いていないという説をたびたび耳にします。潜在能力をすべて引き出し、100%フル稼働することでスーパーマンになれるのではという期待がありますが……その真相はいかに。

清益 功浩

執筆者:清益 功浩

医師 / 家庭の医学ガイド

なぜ「人間は脳の10%しか使っていない」という説があったのか?

「人間は脳の10%しか使っていない」という説は、結論が言ってしまうと”誤り”です。

大脳には、「神経細胞」と神経細胞でない「グリア細胞」があります。このグリア細胞は神経細胞より50倍以上多く存在してしますが、神経細胞のように積極的に脳機能に影響を与えているとは考えられていませんでした。そのため、脳は10%しか働いていないという説になったと言われています。

しかし、現在はこのグリア細胞は神経成長因子に関わっていたり、神経間のつながりに関与していたり、脳の環境を保っているだけでなく、高度な機能にも重要な働きをしていることがわかってきました。そのため、グリア細胞が疾患で破壊されると、神経細胞にも影響を受けることになります。

また、もし人間が脳の10%しか使っていないのであれば、脳梗塞や脳出血があった時に梗塞範囲が狭かったり、出血が少ない時には無症状であったりするはずですが、実際にはその後遺症が問題になっていますね。このことからも、この説が誤りであることが分かると思います。

潜在能力がないのなら、リハビリは無駄なのか?

いったん破壊されてしまった神経細胞の再生は難しいものです。一部は神経幹細胞から再生しますが、破壊された部分が大きいと、なかなか完全修復は難しくなります。例えば、左の脳梗塞で運動神経の部分が破壊された場合、右手足が麻痺します。そのままであれば、麻痺したままです。

しかし、リハビリをすることで、破壊された他の部分が代わりとして働くようになってきます。そのことで、完全回復しないまでもかなり動くようになることがあるのです。リハビリは脳疾患の発症後および治療後から早期に開始する方が望ましいとされています。

というのも、麻痺のために寝たきりになってしまうと、筋力が衰えたり、関節が固定されてしまって、ますます動かなくなる状態になるからです。この状態を「廃用症候群」と呼びます。廃用症候群では、認知症を起こしやすくなったり、誤嚥性肺炎を起こしやすくなります。こうしたことを避けるためにも、リハビリは必要です。

脳の良い状態を保つには、血管の病気に注意して、脳をよく刺激することが大事です。特に、言葉だけでなく表情を使ったり、手足を動かしたりするなど全身を使った運動をすることで脳も全体的に活性化します。

思案する時に、部屋の中を歩きまわったりしませんか?それは、脳全体の活動を高めているわけです。

脳を活動をいつまでも保つために

PET

赤くなっている部分が活動している部分です

脳の栄養であるブドウ糖などに放射線で印をつけ、脳の血流や活動を検査するSPECT検査(SPECT:Single Photon Emission Computed Tomography)によって、普段から大脳は全体的に活動していて、何か集中している時には一部がさらに活動していることがわかるようになりました。

脳は、機能に応じて担当している場所が異なります。例えば、左の側頭葉と呼ばれる部分には言語を担当する分野があり、そこに障害があると、言葉を話すことができなくなります。言葉を話すためには、顔の筋肉を動かす必要がありますが、それを担当している運動分野は言語を担当する場所と異なる場所にあります。このように、「言葉を話す」というひとつの動作にも、脳の複数の場所で分担をしながら活動しているのです。脳出血や脳梗塞の場所によって、症状が異なるのはそのためです。

脳はデリケートでもあり、柔軟性もあるわけですから、活動をいつまでも保つためには、脳への栄養や休息、鍛えることも必要になります。普段からバランスの良い食事、十分な睡眠、適度な運動を行って、脳を活性化させておきたいものです。

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