国内には海抜がきわめて低く満潮時には海面の高さを下回るような、いわゆる「ゼロメートル地帯」が数多く存在しています。
国土交通省がまとめた「三大湾における高潮危険地域」では、東京湾116平方キロメートル、伊勢湾336平方キロメートル、大阪湾124平方キロメートルが「ゼロメートル地帯」とされ、そこに暮らす人口は合わせて404万人となっています。
とくに深刻なのが東京、名古屋、大阪の3大都市ですが、それ以外にも新潟県や佐賀県にも比較的広い範囲にゼロメートル地帯があるようです。
海抜が低い土地になった原因はさまざまですが、東京の荒川両岸地域(江東区東側~江戸川区)に広がるゼロメートル地帯の場合は、明治時代から戦後の高度成長期まで続いた地下水の汲み上げによる地盤沈下が要因だとされています。
このあたりはもともと海抜の低い地域でしたが、記録が残っているものだけでも地盤沈下は最大4.5メートルを超え、現状ではマイナス1メートルより低いところも少なくありません。
昭和50年代以降は地盤沈下がほぼ止まっているものの、ゼロメートル地帯は過去に何度も洪水や高潮などの水害に見舞われています。もちろん、水害防止のための対策は国土交通省や東京都によって進められていますが、今後の危険性がないとはいえないでしょう。
また、東京の海抜ゼロメートル地帯の多くは江戸時代まで低湿地や水域などであり、沖積層とよばれる軟弱な土砂が厚く堆積した地盤のようです。そのため地盤沈下も起きやすかったのでしょうが、現在も地盤が良好だとはいえず、大地震による影響も考えなければなりません。
さらに、ゼロメートル地帯で懸念されるのが交通網であり、東京東部のゼロメートル地帯には8路線23駅の地下鉄が通っています。
駅の出入り口は浸水防止のために数段高くなっていますが、その横の掲示には「万一の水害のときは堅牢な建物の3階以上へ避難すること」を促す注意書きもありました。
ところで、ゼロメートル地帯における住宅の対策はどうなっているのでしょうか。
実際に歩いてみると、マンションでは1階のテラス部分に浸水対策をしたうえで窓にシャッターを取り付けたもの、あるいは1階部分をエントランスと集会室、機械室、駐車場、駐輪場だけにして居室を2階以上に設けたものなどが目につきます。
しかし、ハザードマップなどでは2メートルを超える浸水が予測されながら、何ら対策がとられていないようなマンションも少なくありません。なかには道路面より低い位置に部屋を設けたものもありました。
また、一戸建て住宅では基礎を高く造り、玄関前を数段上がるようにしたケースがいくつかみられるものの、ゼロメートル地帯以外の一般的な住宅地と比べても、それほど大きく変わった様子はありません。
あくまでも歩いてみて感じた範囲内ですが、むしろ何も対策をしていない住宅のほうが圧倒的に多い印象で、新しい住宅でもそれは同じです。
その背景には堤防への信頼もあるでしょうし、狭い敷地で道路と段差をつければバリアフリー化が難しくなることも考えられるでしょう。
東京都ではゼロメートル地帯を取り囲む外郭堤防や水門等の耐震対策が2008年度に完了したとしていますが、荒川堤防では国土交通省による高潮対策工事が現在も実施されています。
また、警視庁小松川署(江戸川区)が作成したハザードマップでは、管内の荒川堤防だけで6箇所の能力不足が指摘されているようです。
さらに、排水施設の整備は1時間あたり100ミリの豪雨を想定しているようですが、近年はそれを超える猛烈な雨も増えていることに注意しなければなりません。
堤防が決壊する確率はそれほど高くないでしょうが、それでも過信することは禁物でしょう。東日本大震災のときには大小合わせておよそ2,000箇所の堤防が壊れたとされ、近い将来に起こり得る首都直下地震によって堤防が崩れることも十分に考えられるのです。
堤防が決壊すれば、津波よりも早い時間で一気に浸水することになるため、素早い避難も欠かせません。このとき、地震の揺れで建物が壊れたり家具の下敷きになっていたりすれば迅速に逃げることができず、少しの浸水でも命が危険にさらされることになるでしょう。
そのため、海抜ゼロメートル地帯においては、住宅の耐震対策や家具の固定なども「浸水対策」の一つとして考えなければなりません。
また、ゼロメートル地帯では自主的な防災活動が比較的盛んであり、住民の防災意識も高いとされていますが、このような地域に住む場合は積極的に地域の活動へ参加することも大切です。
さらに、名古屋や大阪などの海抜ゼロメートル地帯では、南海トラフ地震などによる津波被害も懸念されています。いざというときの避難方法については、日頃からしっかりと意識しておきたいものです。
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