深部静脈血栓症(DVT)とは
深部静脈血栓症(DVT)とは、四肢(通常はふくらはぎまたは大腿)、骨盤の深部静脈の血液が凝固し、血栓が発生した状態をいいます。DVTは重篤な肺塞栓症の主な原因となります。 DVTは静脈の流れが物理的に停滞した状態、血管内皮細胞の障害、血管内皮細胞の機能不全、血液の凝固能亢進などが原因で発生します。大部分の血栓は、大腿、ふくらはぎ、骨盤に発生します。
血栓のできる静脈の名前は外腸骨静脈、浅大腿静脈、後脛骨静脈などです。
深部静脈血栓症の頻度・性差・年齢
あらゆる年齢に発生しますが、高齢者や女性に多い疾患です。深部静脈血栓症のリスク
深部静脈は全く健康な人にも発生しますが、通常はいくつかのリスクのある人に発生しやすい傾向があります。- ふくらはぎまたは大腿の静脈の分布に沿った圧痛
- 脚全体の腫脹
- ふくらはぎの腫脹(外周差が3cmを超える)
- 患脚においてより高度な浮腫
- 表在性の側副静脈の拡張
- 悪性腫瘍(6カ月以内に治療を中止した症例を含む)
- 下肢の不動化(例、麻痺、不全麻痺、ギプス)
- 過去4週間以内の、3日を超える不動化に至る手術
上記の項目で3つあてはまれば高度のリスク、1~2個あてはまれば中等度のリスクとします。
深部静脈血栓症の症状
血栓が発生した部位の腫脹、疼痛、炎症があります。また四肢、骨盤に発生した血栓が上流に流れて、肺に到達すると肺塞栓症となります。肺塞栓症を合併した場合、呼吸困難や心拍数の増加、酸素飽和度の低下、呼吸不全が発生し、重篤な場合死亡することもあります。大腿部に発生した深部静脈血栓症。
深部静脈血栓症の診断
■画像診断深部静脈血栓は超音波で診断します。
右大腿部の超音波診断。血管は圧迫で縮みますが、血栓は大きさが不変です。
大腿部だけでなく、ふくらはぎに小さな血栓が隠れていることが多いため、両側の下肢全体に超音波検査を2回施行します。
■肺塞栓症
肺に塞栓が生じていることの有無を造影CTで診断します。
大腿静脈から下大静脈を通り心臓を経て肺動脈で肺に達します。
■採血
- Dダイマー 血栓を構成するフィブリンが分解する過程で生じる成分で血栓症の診断に使用します
- 動脈血ガスで、酸素飽和度の低下を診断します
深部静脈血栓症の治療法
■薬物治療- ヘパリン
深部静脈血栓症と診断されたらまず注射でヘパリンを投与します。
ノボヘパリン(5000単位)
1本204円で持続点滴、間歇的静脈内注射、皮下注射などの投与法があります。副作用はショック、アナフィラキシー様症状、脳出血、消化管出血、肺出血、硬膜外血腫、後腹膜血腫、腹腔内出血、術後出血、刺入部出血等、血小板減少、HIT等に伴う血小板減少・血栓症、そう痒感、蕁麻疹、悪寒、発熱、鼻炎、気管支喘息、流涙、脱毛、白斑、出血性皮膚壊死、AST上昇、ALT上昇、骨粗鬆症、低アルドステロン症、局所疼痛性血腫などです。
- ワルファリン
ヘパリンの投与に続き、24から48時間以内に内服治療を開始します。いままではワルファリンが標準的な治療でしたが、ここ数年で新しい薬が認可され徐々にその使用が定着してきました。
ワルファリンカリウム1mg
1錠9.6円で1日に1回の1~5mgで開始し、採血で凝固能の検査データをみながら内服量を調整します。副作用は脳出血等の臓器内出血、粘膜出血、皮下出血、皮膚壊死、AST上昇、ALT上昇、AIP上昇等を伴う肝機能障害、黄疸、発疹、そう痒症、紅斑、蕁麻疹、皮膚炎、発熱、悪心・嘔吐、下痢、脱毛、抗甲状腺作用など。後発薬が複数でています。値段はそれほど変わりません。
- イグザレルト
日本では2012年に認可された比較的新しい薬です。ワルファリンと違い採血が必要ありません。出血などの副作用はほぼ同じ割合で発生します。
イグザレルト15mg
1錠545.6円で1日に1錠の内服です。副作用は頭蓋内出血(0.13%)、脳出血(0.1%)、出血性卒中(0.1%)、関節内出血(0.21%)、眼出血(0.27%)、網膜出血(0.12%)、直腸出血(1.15%)、胃腸出血(1.05%)、上部消化管出血(0.55%)、メレナ(0.68%)、下部消化管出血(0.23%)、出血性胃潰瘍(0.19%)、コンパートメント症候群を伴う筋肉内出血(0.01%)、ショック、腎不全、呼吸困難、浮腫、頭痛、浮動性眩暈、蒼白、脱力感、貧血、胸痛、狭心症様の心虚血症状。ALT上昇、AST上昇を伴う肝機能障(0.1~1%未満)、黄疸、間質性肺疾患、頭痛、浮動性眩暈、不眠、失神、結膜出血、耳出血、歯肉出血、口腔内出血、痔出血、血便、便潜血、便秘、腹痛、上腹部痛、口内乾燥、下痢、悪心、嘔吐、痔核、消化不良、胃炎、リパーゼ上昇、アミラーゼ上昇、血腫、低血圧、血管偽動脈瘤形成、頻脈、鼻出血、喀血、呼吸困難、鉄欠乏性貧血、ヘモグロビン減少、INR増加、血小板増加症、ALT上昇、AST上昇、血中ビリルビン上昇、AIP上昇、γ-GTP上昇、直接ビリルビン上昇、LDH上昇、血尿、腎クレアチニンクリアランス減少、尿路出血、血中クレアチニン上昇、BUN上昇、性器出血、月経過多、四肢痛、関節痛、筋肉内出血、斑状出血、皮下出血、擦過傷、脱毛、皮膚裂傷、皮下血腫、発疹、そう痒、アレルギー性皮膚炎、アレルギー反応、蕁麻疹、血管浮腫、挫傷、創傷出血、処置後出血、末梢性浮腫、限局性浮腫、硬膜下血腫、疲労、無力症、食欲減退、倦怠感、創部分泌、発熱などです
後発薬はありません。
■弾性ストッキング
ストッキングで圧迫し静脈圧をあげることで静脈の環流を促します。
弾性ストッキングは下肢の静脈圧を上昇させます。
■手術
深部静脈が肺静脈に届かないように、下大静脈フィルターをカテーテル下に留置することが可能です。何らかの理由でヘパリンの使用ができない場合、深部静脈血栓がある状態で全身麻酔の手術受ける必要がある場合などに使用します。麻酔は局所麻酔で短時間の手術です。
カテーテルを通して下大静脈フィルターを腎静脈より下に留置します。