雑談の中にコミュニケーションを見出す
雑談はメモしておこう
そのため、たとえば「今日も寒いですね」「本当ですね」といった天候の話題や、「オリンピックは感動しましたね」「いや私も寝不足で」といった時事ネタ、「ご出身はどちらですか?」「福岡なんです」などの共通点探りなど、気まずい沈黙をしないための話題を探すテクニックが世の中にあふれています。
もちろん、それが意味のないことだというわけではありませんが、このようなテクニックだけでは、その場しのぎの会話であり「アハハ」と笑って終わり、一過性のものに終わってしまいがちです。
これでは、売上につながるような人間関係に良い影響を与えるのは難しい。
しかし人脈を広げて取引拡大を図っている人は、間(ま)を埋めるのではなく、「この人と話していると気分が良い」と思わせる会話術を心得ているようです。
知人の経営コンサルタントが指導しているという美容院の話です。その美容院は特別すごい技術があるとか、カリスマ美容師がいるというわけではないのですが、地域で大繁盛しているそうです。その秘訣をコンサルタント氏はこう指摘していました。
その店舗は、来店日時・施術内容・髪質や髪型といった一般的な情報はもちろん、客と交わした雑談の内容もパソコンに入力して記録している。たとえば佐藤さんという顧客の欄には、「夫婦でイタリア旅行に行った」「ネコを飼い始めた」と書いてある。
月に1回くらいしか来ない美容院なのに、「イタリア旅行はいかがでしたか?」と聞かれれば、客の方としても「よくぞ覚えていてれた!」と嬉しくなってしゃべり出す。
「ネコちゃんは元気ですか?」と聞かれれば、子供のようにかわいがっているペットの話だから、客はネコとのエピソードをこれでもかと話すようになる。
美容院は、家から近い、値段が安い、腕がいい、店がきれい、などといった違いはあるにせよ、そこまで大きな差別化ができる業態ではない。だからこそ、「どうせ同じ美容院に行くなら、楽しい時間を過ごせる店に行きたい」と客は感じる。それがリピーターの獲得につながる、というのです。
もちろん初対面なら初対面なりの会話術・雑談術があるかもしれません。
しかし二度三度と会う度に人間関係を深めて商売につなげるコミュニケーションとは、雑談力というよりも、むしろ相手に対する興味や好奇心を表現するということなのかもしれません。
ビジネスでの会話でも同様です。たとえば釣りが趣味という取引先の部長が「来週は遠出するんだ」と話したことをメモに残しておく。そしてその翌週、再び訪問し、「部長、先週末の釣りはいかがでしたか?」と、以前に会った時の話を掘り返して聞けば、相手は気持よく会話をスタートできる(かもしれない)。
人は「自分のことを覚えていてくれる」「自分に興味を持ってくれている」「自分を尊敬してくれている」という人に好感を持つので、商談にも良い影響を与えることが期待できるわけです。
会話の内容をメモして次回の雑談やツカミに活用するというのはキャバクラなどでは一般的な方法ですが、これは並大抵の努力ではありません。なぜなら、面倒くさいからです。私にもとても真似はできません。
しかしこの積み重ねが、差別化が難しい接客商売では特に、繁盛店になるかどうかを決する要因にもなるとしたら、やってみる価値はありそうです。