カゼのメカニズム
カゼウイルスは、カゼをひいている人のくしゃみや咳から飛散します。鼻やのどなどの粘膜にこのカゼウイルスが進入してくると、まず線毛という粘膜にある活発に動いているミクロの毛による線毛運動で粘液に流れをつくります。そして、ウイルスを「たん」と一緒に体外に排出したり、飲み込むことで強い胃酸で分解します。線毛の動きが低下するなどして、カゼウイルスが線毛運動のバリアをくぐり、鼻やのどなどの細胞に進入してくると、マクロファージやリンパ球、顆粒球などの白血球群の「免疫細胞」が侵入してきた病原体を退治(分解)します。これがカゼのひき始めです。
この時点では、カゼウイルスは細胞の中で増殖をしておらず症状は軽いです。つまり、進入してきたカゼウイルスを免疫細胞が充分に退治できれば、カゼの症状が悪化することなくひき始めで退治できることになります。
体力が弱まっている場合など、免疫細胞が侵入してきたカゼウイルスを退治できないときは、カゼウイルスが細胞の中に進入して増殖を始めます。
ウイルスは細胞よりも小さく、細胞の機能を持っていない不完全なものですが、DNAやRNAのなどの遺伝子だけを持っています。そのため、増殖するには宿主の細胞の中に入り込んで、宿主の細胞の中にあるDNAやRNAにウイルスのDNAやRNAをつなぎ込む作業をしないと増殖できません。
つまり、カゼウイルスは宿主である人間の細胞の遺伝子を組みかえることで増殖しているわけです。
カゼウイルスに侵され、カゼウイルスを増殖せざるを得なくなった細胞は、細胞からインターフェロンを出しウイルスの増殖を抑制しながら、免疫細胞であるキラー細胞やマクロファージによる排除(ウイルスに侵された細胞の分解)を待ちます。
そしてウイルスを完全に無効にできる抗体ができ、体内から完全に排除できたときに完治となります。
iPS細胞とのかかわり
一連のカゼのメカニズムで解説したように、カゼウイルスは人間の細胞に進入して遺伝子を組み替えることにより増殖しています。実はiPS細胞も、このウイルスの遺伝子組み換えメカニズムを使って作られています。実際に実験では、カゼウイルスの一つであるアデノウイルスやレトロウイルスなどが多く使われています。
具体的には、ウイルスを薬液で処理して送りこみたい遺伝子を組み込み、目的遺伝子が組み込まれたウイルスを細胞に感染させて遺伝子を組み替えています。
遺伝子組み換えは、神の摂理をおかすものとかいろいろな意見はありますが、カゼにかかった時は遺伝子組み換えされている訳ですから、こういう具体事例から遺伝子組み換えを理解すると分かりやすいのではないでしょうか。
■参考資料
「かぜ」とはどういう病気なのか
京府医大誌 122(8),541~547,2013.
アデノウイルスベクターの遺伝子工学
〔ウイルス 第 57 巻 第1号,pp.37-46,2007〕
iPS細胞とは?
京都大学 iPS細胞研究所
http://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/faq/faq2.html