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10年後の東京の姿を長期ビジョンから読む

2014年12月、東京都は2015年から2024年の10年間の都政の長期運営指針となる「長期ビジョン」を発表した。10年後の東京はどのような姿になっているのかを同指針から読んでみよう。

中川 寛子

執筆者:中川 寛子

住みやすい街選び(首都圏)ガイド

東京都が2014年12月に策定した「長期ビジョン」は2015年から2024年の10年間で都が何をしようかを示す長期運営指針。政策目標は360項目余に及び、都市開発から防災、子育て、高齢者対策と非常に多岐にわたるが、ここでは足回り、住宅や子育てなどに直接関連しそうな項目にのみ絞って、これからの東京の姿を想像してみた。

交通:環状2号線、三環状線の整備に
ホームドア設置、勝どき駅利便性アップなど施策目白押し

新虎通り、新橋界隈

虎ノ門ヒルズをくぐった新虎通りが地上に出たあたり。延伸のための工事が続けられている(クリックで拡大)

2020年の東京五輪をにらみ、交通面の利便性アップは急務。そのため、交通面での施策は数多い。五輪直結という意味ではまず、挙げられるのが環状二号線。2014年に虎の門ヒルズ開業、新虎通り開通が話題になったが、工事はまだ続いており、今後、築地、勝どき、晴海を経て有明に達する予定である。

 

晴海線

晴海線と他線の位置関係。距離はさほどではないが、湾岸では交通需要が増えており、意味合いは大きい。首都高速ホームページから(クリックで拡大)

東京五輪のための整備では首都高速でも晴海線の整備が進んでいる。これはすでにある東雲ジャンクションから豊洲出入口までのルートを延伸、晴海に出入口を作るという計画で平成29年度完成予定。

このルートができると晴海の利便性がアップするのみならず、東京臨海部からの交通需要を都心環状線ではなく、湾岸線に誘導できるため、都心環状線および都心部と湾岸線を結ぶ深川線、台場線の混雑を緩和するバイパスとして機能することになる。

 

湾岸部の交通ではこのほか、都心と臨海副都心を結ぶBRT(bus rapid transit バスを基盤とした大量輸送システム。震災後の気仙沼線、大船渡線の例が分かりやすい)、路線バスの充実などが検討されている。

三環状線

首都圏に3つの環状線、9つの放射線状の道路を作るというのがそもそもの計画。現在、真ん中部分だけが完成に近づいている(クリックで拡大)

首都圏全体の利便性につながるのが首都圏三環状道路の完成。これは都心から半径約8キロ圏域を連絡する中央環状線(首都高速中央環状線)、半径約15キロ圏域を連絡する外環道(東京外かく環状道路)、及び半径約40~60キロ圏域を連絡する圏央道(首都圏中央連絡自動車道)の総称で、中央環状線は2015年3月に完成することになっており、残すところは外側の二環状。

 
そのうち、外環道では関越道、東北道、常磐道を結ぶ大泉JCTから三郷南ICまでの約34キロはすでに供用されており、今後2020年までに関越道と東名高速を結ぶ約16キロを完成させる計画。そこからさらに湾岸道路までの約20キロは予定路線となっており、まだ時間はかかりそう。

外環道では東京都の葛飾区区間約0.9キロを含む、三郷南ICから京葉道路、東関東自動車道までを結ぶ約16キロの整備も進められており、平成27年度開通予定。全線が開通すれば都心部の渋滞が緩和されるとともに、各高速道路間の移動も容易になるはずだ。

横浜港

圏央道は首都圏外側の都市、空港、港をつなぐ役割を持つ。写真は横浜港

さらにその外側、横浜、八王子、川越、つくば、成田などの業務核都市と横浜港、成田空港間の広域物流ネットワークを意図した圏央道は東京都区間約24.6キロについてはすでに完成しており、残りは周辺3県部分。都では2020年時点で9割完成としているが、実現にむけては他県の動きがポイントになる。

 
道路に関しては、このほか、中央道調布付近の渋滞対策、多摩南北道路、多摩東西道路、連続立体交差事業などが盛り込まれており、2024年には交通事情も大きく変わりそうだ。

勝どき橋から勝どき

ここ10数年で大きく変化した勝どき。人口が増え、駅の混雑も激しい(クリックで拡大)

続いて鉄道。大きく変わるのは湾岸エリアの窓口となっている都営地下鉄大江戸線勝どき駅。2013年度で勝どき駅の1日平均乗降客数は約4万5,000人で開業当初に都が予測したのは2万8,000人。当然、非常に混雑をしており、現在ホームの増設など大規模な改良工事が進行中。供用開始予定は2018年度。湾岸の足回りが改善されることになる。

 

虎ノ門近く

新駅は桜田通沿い、オフィスビルが集中するエリアに作られる予定(クリックで拡大)

新駅設置が予定されているのは虎の門地区。東京メトロ日比谷線霞ケ関駅と神谷町駅の間、虎の門ヒルズのすぐ脇の桜田通り沿いに新設されることになっており、周辺にはバスターミナル、地下通路なども整備される予定だ。

 

国分寺駅北口

現在、駅前の建物が撤去された状態にまでなっている国分寺駅北口。駅を中心に街を変えようという動きだ(クリックで拡大)

主要駅周辺の整備も進められる予定で、具体的には2027年度を目標に浜松町駅周辺のバスターミナル等の再編、強化、JR、東京モノレール、都営地下鉄の乗り換え改善、2024年度を目標に八重洲地区の東側、北側にバスターミナルが整備されるなどの計画が盛り込まれている。

また、駅の整備に関しては街や交通機関相互のつながりを重視して進める旨が記載されており、例として現在進行中のJR中央線国分寺駅北口の再開発、都営新宿線一之江駅の鉄道、バスの乗り換え改善事業などが挙げられている。

 

ホームドア

乗降客の転落防止のために役立つホームドア。全体としてみればまだまだ設置されていない駅が多い

駅のホームドア整備も進められる。2018年度に東京メトロ銀座線、2019年度に都営新宿線、2020年に東京五輪競技会場周辺等の主要駅と順に設置される予定で、その後は2023年度を目標にJR、私鉄の1日あたりの利用者数が10万人以上の全78駅に設置されるという。

 

こうした動きに伴い、東急線は2020年度までに東横線・田園都市線・大井町線の全64駅にホームドアを設置することを発表しており、他の私鉄にこの動きが波及すれば、全駅にホームドアが設置される日も意外に近いのかもしれない。

そのほか、自転車で快適に走れる空間を整備する、臨海エリアなどで広域的なシェアサイクルが利用できるようにするなどの施策も盛り込まれており、各種の交通が変わりそうである。

都市開発:東京、新宿、渋谷、品川に、
目玉は北青山の都営住宅建替え

渋谷川

建物背後にあり、ほとんど顧みられることのない渋谷川を復活、潤いのある水辺空間を創出する計画だという。写真はまだ東横線が地上を走っていた時代のもの(クリックで拡大)

都心部では駅周辺の整備、再開発が進む。早いところでいえば新宿駅南口の基盤整備が2015年度に完成を予定しており、続いて2017年度には東京駅の丸の内駅前広場の整備が終わる。

2018年度には渋谷駅近くを流れる渋谷川の再生が完了する計画となっており、その後は2020年度に新宿駅の東西自由通路の整備、山手線の品川駅~田町駅間の新駅暫定開業が予定されている。

 

品川駅

山手線新駅に、リニアモーターカー駅と大きな変化が続く品川駅周辺。京浜急行品川駅の移動もささやかれている(クリックで拡大)

このうち、大きく周辺を巻き込んだ変化となりそうなのは、やはり品川駅周辺。山手線新駅、リニア新駅と大きく交通事情を変える計画があるだけに、東京都でも周辺に4つの優先整備地区を設け、公民協働で開発を推進していきたい考え。スケール、影響の大きな開発になるだけに、近隣の住宅事情なども変わりそうだ。

 

市街地の再開発としては竹芝地区、渋谷地区(都営宮下町アパート)、東京五輪後の選手村の利用などが挙げられている。選手村は五輪後に超高層タワー2棟、商業棟を建設した上で、民間に売却するとされており、総戸数は6,000戸。都内の住宅事情が変わりそうな規模だ。

青山北町アパート

老朽化が進み、建物の劣化が目立つ青山北町アパート。表参道近くという好立地だけにどのような計画になるか、気になるところ(クリックで拡大)

また、2005年前後から噂だけが出ていた都営青山北町アパートの建替えがいよいよ進む。ここは国道246号のすぐ脇に約4haと広い敷地を擁する団地で、高層・集約化することで創出される用地を生かした街づくりを進めるという。具体案は2015年度に公表、2020年度までに建て替えを完了する予定。団地と246号の間には古いURの建物もあり、そのあたりの動向も気になるところだ。

 

築地市場

移転予定の築地市場。都心近くの広大な土地だけに跡地利用の動向には関心が集まる

それ以外には築地市場の豊洲移転後の跡地利用を中心にした築地地区、国立競技場建設で変わる神宮外苑地区、開かずの踏切解消が急がれる葛飾区高砂地区などの街づくりの推進も挙げられている。

 

住宅:多摩ニュータウンの建替え、耐震促進、
既存住宅取得率向上が目標に

多摩ニュータウン

多摩ニュータウン内では再生のための公民協働の試みなども始まっており、建替え以外の方途も探られている(クリックで拡大)

住宅関連では多摩ニュータウンの建替えが目立つところ。すでに2013年10月には多摩ニュータウンの中でも最初に入居が始まった諏訪二丁目住宅が民間事業者の手によってマンションに建替えられており、今後も昭和40年代に建設した約3,900戸の都営住宅を計画的に建替え、バリアフリー化などを実施していくという予定だ。同建替え物件が大きく関心を集め、1200戸超という規模にも関わらず、短期間で完売したことを考えると、次回以降の建替えにも注目しておきたい。

 

中古物件

中古物件を有効に活用できれば安価に、しかも利便性のよい場所に住宅を購入できるようになる可能性も。そのための各種施策が望まれる(クリックで拡大)

住宅の質の向上という意味では新築住宅における長期優良住宅の割合を2009年度の3.8%から2020年度には20%にという目標も掲げられており、市場の整備が期待される。同様に既存住宅取得率も2008年度35.1%から2020年度50%が目標になっている。また、住宅セーフティネット機能の強化なども盛り込まれている。

 

住宅も含め、すべての建物に関しては耐震促進が挙げられている。これについては数値は目標とはされていないが、住宅はもちろん、避難場所として予定される公共施設、小中学校などの耐震化率を優先してあげて行っていただきたいと思う。

子育て:2017年度には待機児童解消、
学童クラブ登録児童数も1万2,000人増が目標

保育園

各自治体は保育所作りに追われているが、現状は充足したと公表された途端に転入者が増え、待機児童が発生するいたちごっこになっている(クリックで拡大)

子育てでは多様な保育サービスを拡充し、2017年度末までには待機児童を解消となっており、期待される。ただ、目標とする時期までに残された時間はわずか。絵に描いた餅にならぬよう、しっかり施策を実行していただきたいものだ。

 

保育に関しては都立、公社病院における病児・病後児保育事業の実施も謳われており、2015年度以降順次実施していくとされている。地域は限られるが、病児・病後児保育は不足の目立つ分野。拡充が期待される。

放課後の小学生の居場所作りも盛り込まれている。具体的には2014年5月時点で8万9,327人となっている学童クラブ登録児童数を2019年度末までに1万2,000人増やし、2013年度に1,062校区に設置されている放課後子ども教室を同時期までに全小学校区にまで増やすとしている。

子ども関連ではすべての拘置る小学校通学路に防犯カメラを設置するという施策もある。通学路以外にも街灯防犯カメラの設置が予定されており、子どもを狙う犯罪減少に寄与することになればよいと思う。

幼児

子育て支援策を気にして街を選ぶ人もいる昨今。どのような政策を打ち出すかは自治体の将来に関わる

また、子育て支住宅の認定制度も検討されており、3年後には1,200戸の認定を目指すという。これまでの同種認定の社会的な認知度がいまひとつなことを考えると、実効のある制度を作ることが大事だろう。

 

以上、東京で暮らす人にとって直接関係がありそうな点のみをピックアップした。実際には8つの都市戦略と25の政策指針、約360項目の政策目標が盛り込まれており、全体の事業費は15~17年度で3兆7,400億円という巨大な計画である。ざっとしか紹介できていないので、関心がある人は都庁内の都民情報ルームで長期ビジョンの解説書が売られているので、読んでみるのもよいのではないか。

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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