オーストリア・ウィーン、宮殿庭園に佇む冬の椅子の風景
どこにいても、「何気なくある椅子」が気になる。そして、その場所、空間の一部になりきっている風景がそこにある。
ここは、冬のオーストリア・ウィーン、シェーンブルン宮殿。
宮殿には広大で美しいフランス式庭園がある。そして庭園の小径には休息用の鋳物の脚をもつ木製ベンチ椅子。冬の到来をつげるかのように夕陽の光と陰が醸し出す趣のある顔で佇んでいる。
このベンチ椅子に座って眺める周囲は、カメラの眼には酷な程広く、目を閉じその残像を味わうほどの風景である。
シェーンブルン宮殿は、ウィーンのおへそ的存在のシュテファン大聖堂から西に約5kmほど、車で5~6分、地下鉄U4のシェーンブルン駅で下車すると目前に表れる。
黄色の宮殿と広大な庭園と丘、宮廷劇場、動物園、植物園もある緑豊かな所。
よく「オーストリア・ウィーンの最高に心地よい時期は?」と尋ねられると迷わず、「6月頭」と答える。
観光シーズンの始まりで未だ観光客も少なく、とにかく「新緑」が美しい。この宮殿も樹々の新緑とよく手入れの行き届いた草花がフランス式庭園に映えて、とにかく美しい。
で、次に、というと「11月末から12月」。
夏から秋の観光客が去り、地元の人で街にはクリスマス市で賑わう時期。まだ雪はない時期、空気がカーンと乾き、冷たい。
とくに夕暮れの風景は味わいのある光と陰に包まれ、ツァイスのテッサーのように鋭くクリアーで美しい。この時期のすこし固いがモノの輪郭がはっきりして透き通る映像が、素晴らしく美しい。
シェーンブルンのこの時期は、人も少なくひっそりとしてウィーンの冬の到来を静かに待つ時節。夕陽で表情が変わっていく庭園の石像も、夕暮れ特有の叙情的な佇まいとなっていく。
夕暮れの佇まいの象徴は丘の上のグロリエッテ
広い庭園を挟んで宮殿に向かい合う丘の上にはグロリエッテというギリシャ建築の記念碑がある。夕暮れの青い空を背景に丘の上に建つその優美な姿を眺めながらゆっくりと丘を登って行く時間は何度味わっても心地よいもの。グロリエッテは、対プロイセン戦の勝利と戦没者の慰霊の為に立てた碑。数年前に改装され、内部から周囲を一望出来るカフェとなっている。
ここからは、真っ正面に黄色い宮殿、その向こう側にはウィーンの市街地が望める。おへそ的存在のシュテファン大聖堂が、異様に大きいのもここからの眺望で一目瞭然。ボクはここから春、夏、秋、冬と何度もスケッチをした・・・とにかく「絵になる眺望」なのだ。