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これからの街選び 「安心して徘徊できる街」

長く続く高齢化社会に伴って、認知症患者の数が増加しています。国民の10名に1名は何かしらの形で認知症を向き合っていかなくてはならない、と言われてる昨今、もはや他人事ではありません。安心して徘徊できる街づくりを取り組んでいる市があります。どんな街なのでしょうか。

大久保 恭子

執筆者:大久保 恭子

これからの家族と住まいガイド

安心して徘徊できる街

認知症本人が穏やかに生活できるばかりでなく、介護者の負担も軽くするような街づくりを期待したいですね

2013年に徘徊して行方不明になった認知症の高齢者数が1万人を超えました。認知症患者数は2012年305万人、25年には400万人超と推計されています。65歳以上4の人に一人が認知症もしくは認知症予備軍と言われています。こうしたなか地域住民が中心となって「安心して徘徊できる街」づくりに取り組んでいるのが福岡県の大牟田市です。

街選びと徘徊にどんな関係があるの?という声が聞こえてきそうですね。高齢者が安心して徘徊できるということは、子どもたちが迷子になっても安心な街でもあるのです。つまり、高齢者や子どもが安心して暮らせる街は、誰にとっても住みやすい街といえるのです。

それでは安心して徘徊できる、迷子になれる街とはどのような街なのでしょうか。

安心して徘徊できる大牟田市

大牟田市を例に見ていきましょう。大牟田市は人口約12万人。東京都の青梅市(人口約13万人)に近い規模の市です。この市で、安心して徘徊できる街づくりの取り組みとして最も注目を集めるのが「徘徊模擬訓練」です。

これは認知症の徘徊による行方不明者が発生したと想定し、徘徊役が市内を模擬徘徊している間に、警察や消防、行政が連携し、地域住民や生活関連企業、介護サービス事業者等に情報伝達を行い、その情報を得た住民らがサポーターとなって、徘徊役を探したり、声をかけ、無事に保護しようとするものです。そのためにはひとりでも多くの住民が認知症に関心を持ち、日頃から互いに声をかけ、認知症患者への気配り、見守りあうという意識を高めていくことが必要です。

大牟田市では「安心して徘徊できる街」づくりために3つの提言をかかげています。1つ目は、自治会や民生委員や地域資源(学校、郵便局、銀行など)を活用した向こう三軒両隣、小学校校区の身近な地域ネットワーク作りです。2つ目は小中学校の出前教室を開くなど、子どもから大人まで認知症について学ぶ機会を得る。3つ目は認知症ケアと地域づくりの要になる推進者の育成です。

誰もが安心して暮らせる街の条件

これはそのまま子どもやその他の生活弱者にも置き換えられることだと考えます。大牟田市を参考に、誰もが安心して暮らせる街の条件を整理してみましょう。

〈地域ネットワークが確立されている〉
町内会・自治会が組織され、日常的に子どもの見守りや火の用心のための見回りなどが実施されている。民生委員や子育てヘルパーが熱心に活動していて、生活・子育て・介護で困った方々を支援する環境がととのっている。近所の人同士が挨拶だけではなく、夜回りや道路の清掃や植栽の手入など自分たちが暮らす街の住環境を協力し合って維持・向上させるための活動が日常的になされている。

〈街づくりに取り組む推進役がいる〉
国や自治体に頼らず、地域住民が自分たちのために、自らの知恵、時間、労力を使って街がかかえる防犯や防災などの課題を明らかにし、それを解決する方法を導き出し、実行に移すためにリーダーシップをとる人がいる。

〈必要な知識習得や地域住民活動を支援するための自治体サービスがある〉
たとえば街づくり・子育て・福祉住環境コーディネーターなどの養成研修を自治体が積極的におこない、明日のリーダー育成に力を入れている。絵本教室や小・中・高の出前教室などで認知症・幼児の見守りや防犯、防災、緑化などの課題や解決に必要な知識・情報の提供が日常的になされている。

では、こうした条件の整った街かどうかを見分けるには、どうしたらいいでしょうか。

誰もが安心して暮らせる街の見分け方

誰もが安心して暮らせる街かどうかを見極めるには、次のような方法が考えられます。

○ 自治体が発行している広報誌を1年分ほどまとめて閲覧する
……自治体が力を入れて支援している地域住民活動の概略が分かります。

○ 購入を検討している街にある銀行や郵便局、スーパーマーケット、銭湯などに掲出されている張り紙を確認する
……地元の人が集まるところに、地域住民活動についてのお知らせや協力者募集の張り紙があれば、日常的に色々な活動がなされていることが分かります。

○ 購入を検討しているマンションや一戸建てが参加している町内会の活動内容を不動産会社の営業マンに聞く

……将来自分が属することになる自治会や町内会が、一番身近な地域活動の組織です。ここでどのような活動がなされているかが、基本的な暮らしやすさにつながります。都心部のマンションには、町内会活動にまったく参加しないというケースもあり、地域内で孤立している可能性もあります。

○ 地元で長く営業する老舗不動産会社に出向き、街の顔役や地域活動について聞く

……街づくりのリーダーや非公式ながら頑張っているグループの情報収集ができます。購入を検討している不動産会社でなくとも、地域に密着している不動産会社であれば、けっこう親切に話してくれます。


これからの街選びは相互扶助システムのある街がいい

これからの街選びに必要なのは、自治体や企業による便利な生活サービスのあるところということに加えて、地域住民同士の相互扶助システムがあるところ、という視点ではないでしょうか。

徐々に減少する人口、それにともなう需要不足、税収不足により、便利な商業・生活施設は減少し、生き届いた自治体の生活インフラサービスも低下します。これまでのように、代金や税金さへ払えば、十分質の高いサービスが得られ、ひとりでも生きられるという時代ではなくなりつつあります。

既に過疎化の激しい地域ではスーパーや病院、公共交通が撤退し、車が運転できない高齢者は地域住民の助けなしに日々の暮らしがたちゆかなくなりました。夕張市のように自治体が財政破たんすれば、公共施設の運営、道路の補修、その他生活の基礎となるサービスが行き届かす不便になった穴を、住民の力で埋める必要が出てきます。

相互扶助システムの要となるのは、親族や友人、隣人たちとのネットワークです。このネットワークは、自分に「もしものこと」があれば支援してもらう代償として、相手に「もしものこと」があったときに支援する、という互恵的なものです。ひらたくいえば、お互いに迷惑をかけあう、お互い様のシステムではないでしょうか。

人間というものは迷惑をかけたり、かけられたりするものだ、という人間理解が、その基本にあります。大牟田市の「安心して徘徊できる街」づくりは、まさしくこれがベースとなっていると思います。

けれども今のひとたち(もちろん私も)は「私は誰にも迷惑をかけたくないし、誰からも迷惑をかけられたくない」という願いを公言します。たしかに、自分が健康で、社会生活が順調なときは、誰からも支援される必要はありません。そのときに一方的に支援を求められたら、「自分の面倒は自分でみろよ」と言いたくなるかもしれません。

しかし、相互扶助システムというのは、「強者に支援する義務があり弱者には支援される権利がある」という不公平なルールで運営されています。認知症の高齢者、幼児、その他日常生活に手助けのいる弱者を助け、誰もがいつまでも安心して暮らせる街にはこうしたルールが機能しているのではないでしょうか。

これからの街選びに「相互扶助システム」のある街という視点はかかせません。

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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