絵本

「らいねん」ってどんなもの? 『くまのこのとしこし』

年の瀬が押し迫るにつれて、バタバタと忙しさを増す家族の様子。これからやってくる「らいねん」の存在がまだよくわからないまま、おおみそかの夜にかけて心の高まりもクライマックスに達するくまの子の気持ちが詰まった『くまのこのとしこし』。ようやく家に訪れた「らいねん」とは? 年末年始に小さな子どもたちが抱く思いを、くま一家の様子を通して温かく静かに描きます。

執筆者:千葉 美奈子

「らいねん」がおうち来るのを待ちわびる『くまのこのとしこし』

子どものころ、唯一「早く寝なさい!」と言われずに夜が更けていくのを家族で楽しみ、それどころか日付が変わる前になると「もうちょっと頑張って起きていなきゃ!」などと言われる日、それが大晦日ではなかったでしょうか。クリスマスが終わると一気に家族の様子も町中の様子も新年を迎える準備に入り、ああ忙しい忙しい、とつぶやく大人たちを見ながら、新しい年が来るのをドキドキしながら待った子ども心。

絵本『くまのこのとしこし』では、まだ「らいねん」というものがどういうものかよくわかっていない小さなくまの子の気持ちを、くま一家の年末の様子を通して楽しく描きます。


 

お正月を迎える準備のかたわらで

お正月を迎える準備に、お父さんもお母さんも大忙し。家をきれいにして「らいねん」というものをおうちに迎えるということを知ったくまの子は、感心して自分の部屋のお片付けを始めます。お父さんがたくさんの人に、「らいねん」が来たら届くように「おめでとう」の手紙を書いているのを見て、そんなにおめでたいことなんだと驚いて、「らいねん」のために飾りを作り始めます。お母さんまで「らいねん」を迎えるためにお買い物に行こうと言い出す様子に、くまの子の中で、「らいねん」の存在がどんどん大きくなっていきます。こんなにみんなに思われて迎えられる「らいねん」がうらやましくなるくまの子です。

「らいねん」がちゃんと我が家の存在に気づけるように、飾り付けも料理の準備も万端にし、家族で温かいおそばを食べながらドキドキして待つ時間。あと3時間、2時間……。とても長く感じるものです。


ようやくやってきた「らいねん」とは?

長いと思っていた時間が気がつくとどんどん過ぎて、ようやく「らいねん」が我が家にやってきた! あれ、「らいねん」はどこにいるの? 何かが変わったの?

ああ、何だか、子どもの頃の大みそかの気持ちがよみがえってくるようです。でも、子どものころだけでしょうか。年の瀬が押し迫ってくると、大人たちは、あれもこれも今年中に片付けなければと必死になります。家をきれいにし、心に引っかかることをなくしたまっさらな状態で「らいねん」を迎えたいと毎年思うものの、ようやく年賀状を今年のうちに出せればまだましで、家の中は思ったようには片付かず、来年にまたいでいる仕事が心に引っかかっていたり……。それでも、そんなことはお構いなしに新しい年が静かにやってくると、途端に、静かな落ち着いた気持ちでこれからの1年に思いを馳せるのではないでしょうか。

新年の訪れという目に見えないものを、家族で準備して迎え入れるお正月。絵本の中のくまの子は、その発想から3~4歳ぐらいの子なのかなと想像しました。この年頃の子が、年を越すまで起きているのも大変なこと。皆さんのおうちのお子さんたちは、「らいねん」がやってくるまで目をパッチリ開けていることができるでしょうか!?

大みそかから新年への切り替わりを何度も経験している大きな子でも、この絵本は微笑ましい気持ちをもって楽しめるようですよ。ぜひ、年の瀬の慌ただしい中でこそ、こんな絵本を手にする時間を少し取ってみていただきたいなあと思います。
 
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