「なんだか、シャクなデザインだなぁ」と思ったらチャンス!
――ところで、高橋さんが東京のなかでも「六本木」という街にこだわり、約30年もの間このエリアにオフィスを構えてお仕事をされている理由は何でしょう?
「六本木はちゃんと大人も遊んていて集まっている土地だと思います。少なくとも表向きはガラ悪くないし、盛り場といっても偉そうではないし。私は遊んでいる人を見るのが好きなのかもしれません。そして安全で分別あるイメージもあります。現実はともかくとして、ですが……」
――全国で建築からグラフィックまで幅広いお仕事をされている高橋さんからみて、現在の日本の都市・建築や街の景観をどう思われますか?
「いま、どこの街も均質化していっています。これは『成熟化するとそうなる』といった言い方もあるようですが、私には、そうは思えません。わかりにくいものや個性を受け止めるには、じつは相当な寛容さや体力が必要です。いまは、みんな、そうした作業を『めんどくさいな~』と思って考えないようにしているのではないでしょうか? でも『そこそこのモノ』で慣らされるのはシャクだと感じたほうかいいと思います」
膨大な「タカハシ・ワークス」のほんの一部。左上は山梨の湖畔に建てたコルビュジエを連想させるモダニズム建築。そのほかにも2次元、3次元のキャラクターデザイン、書籍の装丁イラスト、公園の「すべらない、すべり台」など活動範囲は多岐にわたります。「ずっと同じことができない器用ビンボーなんですよ」とご本人は謙遜されますが……。
――なぜ日本の街並みは均質化していったのでしょうか? そして、いろいろなモノが「シャクにさわる、と感じること」とは具体的に、どんなことでしょうか?
「あくまで私見ですが、新幹線の駅が全国にできて、津々浦々まで同じような街づくりを展開をしていったことが、均一でつまらない景観になっていった原因のひとつではないかと……。そして便利で、ありがたいものには、ストレスを感じなくていい、つまんなくていいんだ、とインプリントされてしまったのではないかと思うんです。ですから、『このデザイン、なんかシャクにさわるな、カチンとくるな』と感じたらチャンスなんですよ。これは、イヤなことじゃなくて、自分の好みが現れたぞ、という、いいサインなんです」
――それは、つまらないモノに対する「怒り」のようなものでしょうか?
「いやいや、怒るんじゃなくて、その『シャクにさわった部分』をじっくりと味わいたい。すると、ジワジワといいな、と感じる部分が見えてきますから。そこを推し進めていくと、いろんな街やお店、インテリア、モノはたのしくなっきて、自宅も自分もかわいく思えてくるはずです。どうやら私はそんなことを、インテリアのデザインでも実践したい、と考えているようです」
お店が「商品を盛り上げるデザイン」になっているか観察ましょう
――お忙しいなか、お時間をいただき、ありがとうございました。最後に、お店のデザインから学んで自宅のインテリアに「応用できること」を教えてください。
「お店の評価の考え方として『料理屋なら味で勝負でしょ?』という言い方って、よくありますよね。それは、もっともです。でも、私は『その料理屋(お店)の雰囲気が、味(商品)を最大限に盛り立てる、しつらえ=デザインになっているか』ということを感じとる作業をしてほしいと思います。これは自分のセンスをみがくトレーニングになりますし、自宅のインテリアコーディネートにも取り入れて『応用できる』考え方です」
進行中の飲食店の設計監理で忙しく、これから現場に向かわれるという高橋さんにムリを言って著書にサインをお願いすると、5秒でこんな絵を描いてくださいました。 このナゾの生物にこめられたメッセージは何でしょうか?
取材協力:株式会社メイドイン取締役社長 高橋哲史(たかはし・てつし)
※文中のイラスト、漫画、写真はすべて高橋哲史氏によるものです。
高橋哲史さんのブログ「デザインいじり」から事例や最新著書『お店の解剖図鑑』の書籍紹介、会社概要、経歴などがごらんいただけます。
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