浦井健治さん(ローランド役)
「その場その場の”リアルな感情”と”対話”を大切に」
ローランド役 浦井健治さん
――今年は本当に様々な分野で活躍されましたが、最後を飾るのがとても濃密な二人芝居になりましたね。
浦井
朗読劇では経験しているのですが、実際の舞台で二人芝居をやらせて頂くのは初めてですし、小川(絵梨子)さんの演出、更にここまで深い“対話”が求められる作品ということで、最初は「うわあ、ハードル高っ!」って思いましたね。今、舞台の幕が開いて、毎日かけがえのない時間を過ごさせて頂いていると感じています。
――小川さんの演出はいかがでしたか?
浦井
これまで小川さんの演出を受けた先輩たちから“絶対にあきらめない人”という話は聞いていました。“覚悟しとけよ”、と(笑)。人に何かを伝えるのって凄いエネルギーがいると思うんですが、小川さんはどんな時もあきらめずに僕達二人と対峙してくれます。稽古に入る時に「最後の兵庫公演まで私はこのカンパニーを家族だと思ってるから。その時までは何があっても絶対に見放さないから」と仰ってくれたんです。これがもう嬉しくて。
確かに小川さんの要求はいつもハードルが高いんです。それに僕達も諦めずトライしていく。この『星ノ数ホド』は既に先輩や仲間たちが沢山観に来て下さっているのですが、皆が「良かったよ、こういう舞台が観たかった」と言ってくれるのがとても嬉しいですし、それがある意味“答え”なのかと思っています。
(撮影:谷古宇正彦)
――5月に上演された『ビッグ・フェラー』の取材に伺った時、浦井さんの台本の付箋の多さと書き込み量に驚いたのですが、今回はその台本を取り上げられたそうですね。
浦井
実はね、今回は3回取り上げられてるんです(笑)。最終的に4冊の台本を貰ったという(笑)。芸術監督の宮田慶子さんが「台本は役者のお守りである」と仰っていたんですけど、今回はその“お守り”を敢えて離すことで、その場その場のリアルな対話と感情を大事にしていく事が一つのテーマになりました。この経験を今出来る事が、きっとこの先の色々なことに繋がっていくと思います。
――『星ノ数ホド』は無数の現実が存在するという物理学的な視点を持って描かれていますが、浦井さんは俳優という仕事を選んでいなかったら、今頃何をしていると思いますか?
浦井
うーん、何してるんだろう……想像つかない……。でも人と関わる仕事をしているのは間違いないですね。動物好きが高じて獣医になっているのか……うーん、難しい(笑)。
――物語のラストで、マリアンとローランドが再会する場面がもう1度リピートされたのがとても印象的でした。
浦井
あのラストシーン、カンパニーでは“ハッピーE”って呼ばれてるんです。実はその前に二人がソファでとても重要な決断にGOを出すシーンがあって、最後の再会の場面でもソファへの照明は残っているんです。という事は、あのラストシーンの幸福な二人の姿は“夢”なのかもしれない、と。
ただ、その解釈や二人がどの世界を生きるのかということは、お客様それぞれが想像して下されば良いと僕は思っています。『星ノ数ホド』は観た方の数だけ答えがある作品だと。
(撮影:谷古宇正彦)
――では最後にメッセージをお願いします
浦井
まずはご来場下さったお客様、本当にありがとうございます。カンパニーが一つになって作品を作っていますので、マリアンとローランドの二人の物語に、劇場にいらした方それぞれの人生を重ね合わせて何かギフトをお持ち帰り頂けたらとても嬉しいです。劇場でお待ちしています。
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とあるマチネの終演後に楽屋でお二人にお話を伺いました。鈴木杏さんは言葉を丁寧に選びながら語って下さり、浦井健治さんはキラキラしたエネルギーを放出しながらお話して下さって、そこにはマリアンとローランドとは一味違う二人の俳優の姿がありました。
インタビューは個別だったのですが、鈴木さん、浦井さん双方から”対話”という単語が多く出たのがとても印象的でした。作品に対してお二人が同じ方向を見て舞台に立っているのがコメントからも強く伝わります。
二人の俳優がリアルな感情と対話を繊細に積み上げて、幾多の”現実”を生きる『星ノ数ホド』。是非劇場で体感して下さい。劇場に入る前と出た後では、あなたの人生の色が少し変わって見えるかもしれません。
◆星ノ数ホド 新国立劇場・小劇場 ~12月21日(日)
作 ニック・ペイン 演出 小川絵梨子
→ 公式HP