電柱が傾いていたら、
何か、危ないことがあると思おう
府中市と対岸の稲城市は多摩川沿いには府中同様に低地が広がり、その背後には多摩丘陵がそびえる。現在、稲城駅の南側では丘陵地を削っての宅地開発が行われているので、駅から急な階段を上って造成中のエリアに行ってみる。階段を上りきったところは平らで、造成エリアの端の部分以外には傾斜はない。
そこで最初に指摘されたのは電柱である。見ると電柱が傾いている。高橋さんによるとこのあたりは造成されたばかりで、電柱自体も2年ほど前に建てられたはずとのこと。それなのに傾くかは地盤が軟弱なためか、がら(建築現場などで出るコンクリート片や鉄筋、鉄骨などの塊)で埋められた土地だからだという。
「この辺りはもともと入り組んだ急傾斜地。ところがそれが削られ、その後、埋められたことで一見平らに見える土地になっていますが、実は強度を求められても検査のできない土地であることが多いのです」。
電柱は意外に地中深く埋められるもので、JIS規格では全長の6分の1の長さを根入れすることと定められており、15mの電柱だと2.5m。この深さはちょうど一戸建て住宅において建物荷重が地盤に影響を与える深度とほぼ同じくらい。それが曲がるということは住宅にも危険を及ぼす可能性があると見るべきだろう。削られ、盛られた土地には危険があることがよく分かる。
ちなみに稲城市役所都市建設部市街地整備課の資料によれば、このエリアでは戦後の食糧難の時代に山林を切り開いて農地開拓をする例が増え、昭和33年の狩野川台風では雨による侵食で弱くなっていた斜面の多くが崩落。その後、高度経済成長期にこの地の山砂が建設現場の埋め戻し材として使われたため、崩落していた斜面地にたくさんの山砂採取場が作られ、場所によっては60mもの高低差がある崖などもあったとか。
建設ラッシュが去った後、採取場の多くはそのままに放置され、雨による侵食を受けやすい状態のまま。そうした危険な場所に宅地開発をするようなケースもあり、東京都は危険ながけ地の改善を地権者に勧告してきた。長らく手がつけらない状況から区画整理が始まったのは、近年になってから。現地では現在、一戸建てやマンション建設が進められている。
こうした土地で怖いのはかつて谷のあった場所が削ったり、埋めたりの経過を経て、現状では平らに見えているということである。見て分かるような傾斜地であれば注意もしようが、見たところが平らであれば警戒心は薄くなる。実際、横浜で杭の長さが足りなかったマンションの事例でも敷地自体はほぼ平坦にされており、それがこの程度で大丈夫だろうという判断を生んだように思われる。本来傾斜地であるはずなのに、一見平らな部分があったら、過去の改変履歴をチェックすることを忘れないようにしたい。
●参考資料
南山東部地区のまちづくり(稲城市役所都市建設部市街地整備課)
擁壁では排水口の有無、
何が出ているかを必ずチェック
傾斜地につきものは擁壁である。見方、種類についてはいずれ改めて記事にすることとし、簡単な安全度チェックを教えて頂いた。「まず、大事なのは排水口の有無。擁壁3平米に1カ所、内径75mm以上の水抜き穴及び排水施設があるかどうかを見てください。これがないと、土圧のみならず、擁壁内部に溜まった水の重さで擁壁が滑り出したり、場合によっては破壊、転倒することもあります」。
もうひとつのチェックポイントは排水口から泥水が出ていないかどうか。施工したばかりであれば多少泥水が出ることもあるが、それが続くようであれば施工に不備がある、擁壁内側で異変が起きているなどの可能性がある。さらに泥が詰まって草が生えているようであれば、さらに悪い状況。排水口を覗き込んで確認してみよう。
また、ある程度古い擁壁では擁壁表面が湿っていたり、常に水がしみだしている、そこに苔などが生えている状況や擁壁の出隅部、その他にひび割れが生じている、継ぎ目の目地部分がずれているなども危険な兆候だ。擁壁については国土交通省ホームページ内の宅地防災というコーナーに擁壁のチェックリストなどが掲載されているので、擁壁があるエリアで住宅を検討している際には「我が家の宅地防災マニュアル」だけでも一読しておくと良いと思う。
宅地防災(国土交通省)